裁判所も「後見は必要ない」と厳しく批判!なぜ港区は父を連れ去り、入院先を隠していたのか
年老いた親や親戚が、ある日突然消えた。何か悪いことをしたわけではなく、犯罪に巻き込まれたわけでもない。連れ去ったのは、自治体の職員だった──。 【写真】何者かが診断書を改ざんか?港区推薦の弁護士に父のマンションも売却されそうになっていた! そんな“事件”がいま、全国で多発している。スローニュースはこれまで2回にわたって東京都港区のケースを報じてきた。「自治体職員がこんなことをするはずがない」「被害者の方に落ち度があったに違いない」といった意見もインターネット上で散見されたが、これは現実の出来事だ。そればかりではなく、港区の強引なやり方が裁判で争われ、行政側が敗北したケースもある。
港区の成年後見の申し立て「必要な事情が存在しない」と裁判所が却下
〈主文 本件申し立てを却下する〉 2023年12月、港区長が同区内に住んでいた90代の男性に対して成年後見人の選任を求めていた審判で、東京家庭裁判所は港区の申し立てを却下した。最高裁判所の資料によると、成年後見の申し立てが却下される割合は全体の0.3%。東京家裁の決定は異例だったといってよい。 その決定理由には、港区への厳しい言葉が並ぶ。 〈後見を開始する要件を満たしていない〉 〈(成年後見人が)特に必要があると認められる事情も存しない〉 いったい、何が起きたのか。当事者である90代男性の長女・戸田洋子さん(仮名、60代)は、こう話す。 「2022年5月、突然、私が住んでいる都外の自宅に港区から手紙が届きました。そこには、父の判断能力が低下していて日常生活を送るのが難しくなっているので、成年後見人の選任が必要だと書かれていました」 港区役所から届いた手紙は5月9日付。役所スタイルの書類には、港区で暮らす父についての記載があった。 〈現在、判断能力が低下しており、日常生活を送るにあたり、早急に配慮が必要な状況にあります。そのため、本人に代わって金銭や福祉サービスの管理を行う成年後見人を選任することが必要と思われます〉
娘の意向を無視し、父の入院先さえ教えず
成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって判断能力の衰えた人に代わって、家庭裁判所によって選任された「成年後見人」が財産などの管理をする制度だ。判断能力が低下した人が遺産分割協議や売買などの契約行為をしようとすると、内容をよく理解しないままサイン(合意)してしまい、不利益を被る可能性がある。そんな被害を防ぎ、判断能力が低下した人でも適正な契約行為ができるようにすることが目的だ。 突然の知らせに驚いた戸田さんは、すぐに港区の担当部署に電話をかけた。すると、担当部署の職員は予想もしなかったことを告げた。すでに父は病院に入院しているうえ、どの病院にいるのかも教えられない、という。 戸田さんは振り返る。 「港区からの手紙には、成年後見人は『4親等以内の親族の方による請求が基本』と書かれていて、私に申し立ての意思があるかを確かめるものでした。なので、私は添付されていた意思確認の書類に、申し立ての意思について『あります』とチェックを入れてファクスをしたんです。それなのに、港区の職員は父について『申し立ては区でやります』、『個人情報なので居場所は言えません』と言うばかり。じゃあ、何のために意思確認の手紙を送ってきたのか? 意味がわかりませんでした」