【内幕】「私がやらないで誰がやるんだ」日露交渉 安倍元首相銃撃1年…側近が語る「長期政権の舞台裏」②
■安倍首相の提案…プーチン大統領「素晴らしい」
―――担当された共同経済活動で、新しいアプローチで少し前に進むことができるというのは、安倍氏自身も含めて当時の官邸では一致した認識だったのでしょうか。 長谷川元首相補佐官 私が直接担当したことから言うと、そこに行く前にもう一つ大きい話がありまして、通称「8項目提案」です。 これは2016年5月のソチでの日露首脳会談で、安倍総理から提案するわけですが。私が見るところ、ロシアに先ほど申し上げた様々な弱みがあるんですが、その弱みを弱みと言わずに、こういう形で、協力できるプログラムを展開したらいいんじゃないかと提案を総理からしたわけです。 プーチン大統領に説明するために当然資料を渡すんですが、「私に資料なんか読ませるのか」みたいな感じで配る人を腕で払いのけるんですね。そして資料を置いて、最初ラブロフ外相とぺちゃくちゃお喋りをしてるんです。安倍総理の説明がどんどん進んでいくに従って、お喋りをやめ、資料に目が移ってきて通訳が入りますから、実は8項目を説明するのは意外と時間がかかるんです。 プーチン大統領は黙ってさえぎることなく、じっと聞いていました。そして、説明が終わったら「素晴らしい」と一言言ったのです。 やはり日本がロシアを経済・社会・暮らし・産業で本気でやってくれるのだなと。サポートしてくれるのだなと。かなりそこでプーチン大統領も本気度が高まったんじゃないかと思っています。 それが直接影響したかどうかは、私は確かめようがないんですけど、その年に山口を訪問する前に、11月にペルーでAPECがありました。その折に日露首脳会談があって、そこで新しいアプローチという話が出てくるわけですね。 私も何が新しくて、何が古いかということは、つまびらかにしてなくて、どこが新しいかという説明はまだちょっと、言葉を濁したこともあるんですけども、共同経済活動を四島でやることが、一つのまず最初の軸ということで、山口にプーチン大統領が来て、そこで共同声明という形で四島の名前が全て書かれて、そこで共同経済活動をしようと。すなわち、その四島が全部が舞台となるよう共同経済活動をしようというで合意するわけです。 しかし、これは北海道の皆さん、とりわけ本件に非常に深く関与されてきた方々にしてみるといわば従来の進め方と動きが相当異なるアプローチでした。ですから、まず何が新しく、どうして新しいのが必要なのか、うまくいくのか、様々な疑問が出てくるのは、当たり前ですよね。 ずっと渾身(こんしん)で四島返還運動をされてきた皆さんですし、またその方々のおそらく支持がなければ、この話は進められません。そして、私も根室に参りました。率直に申し上げて、「やってみろ」という方もいらっしゃるし「ちょっと考え方が違ってる」「十分納得させてくれ」という方もいらっしゃったし、それから「反対だ」という方もいらっしゃいました。 それぞれ皆さん率直に意見を仰ってくれて、私達の考えと、こういう方針でこういうことをしたいと協力して欲しいと。そして、翌年の6月に、第一回目の四島訪問が実現するわけです。 私が、谷内局長から、「長谷川さんが訪問のリーダーを」と、お話を頂きましたので、私がリーダーということで訪問するわけですけど、その時に、根室や北海道の全体からも、多くの民間の皆さんが、一緒に行ってくれるということで同行頂きました。 そして根室港には、えとぴりか号が出港する時に、多くの人が見送りに来て下さって「とにかくしっかりとやってこい」と。それで、国後島から入って択捉島に行く。まずは、現地を見てみないとプロジェクトをどうしていいかと見当つきませんので。 それと並行して、その墓参についても外務省が頑張っていたんですが、従来から墓参というのは時々あったんですが、それが、皆さんがかつて住んでいたところの近くまで、すなわち着岸港から遠くまで行くという形で、少しずつ前進していった。交渉がかなり進展を見せてきた時だと思います。