【内幕】「私がやらないで誰がやるんだ」日露交渉 安倍元首相銃撃1年…側近が語る「長期政権の舞台裏」②
■ロシアの「弱み」…弱みと言わずにフルコースを
―――ロシアは手ごわいという意見もあったと思うんですが、当時は官邸内でどのような形で進めようとしていましたか。 長谷川元首相補佐官 外務省には2013年4月から始まって、しばらくの間は、日露交渉というのは外務省が責任を持って、外務省が、自分の権限と職責で解決するという自負と、積み重ねがあったのは事実です。ですから、いわゆる動静・情報が、私も含めて、あまり十分伝わってこなかった。 しかし、経済も一つの柱ということは最初からあったんですけれども、従来型の日本の経済団体とモスクワのカウンターパートが、協議するようなやり方だったわけです。 そして、私もそういう内情とか、動きが逐一知らされないので、何がどうなってるのかよくわからなかったのですが、従来のやり方は、うまく進まないという、ある種の偶然があったために、それが偶然の契機になって、私も全く個人的なルートで、従来の経済団体ではない人々を、巻き込んで、それを総理が応援してくれて、モスクワ訪問する。同時に地方訪問するということがだんだん増えてきたわけです。 この日露交渉を見たときに、やはり世界の情勢というか、第三国で起こっていることは、やはり色濃く影響を与えるわけです。 その点から一つ申し上げると、2015年ぐらいから、油価がすごく下がるんですね。ロシアの強みでもあり、弱みはこれ今でも変わってないですけど、外貨の収入。輸出の多い時は7割、少ない時でも過半は、石油、ガス、石炭なんですね。 実はロシアの思う通りに値段が上がったり下がったりしないわけです。グローバルな、油価の値段が下がると、ロシアは、海外からの、いわゆるハードカレンシー(決済通貨)の収入が減るわけです。 それがちょうど1年ぐらい続いた頃、ソチの首脳会談です。私はもう一度、ロシアは相当経済的な歳入が減っているに違いないから、彼らの弱みを、弱みと言わないで、しかし弱みに突っ込むような、いわばフルコースメニューにしようと。これを世耕さんが支持してくれました。 この時に私が感じたのは、各省の幹部の皆さん、次官級の方が多かったのですけど、縦割りとかよく言われますけど、全くそんなことはなく。平和条約のために役立つなら、ベストを尽くすという雰囲気でした。国家公務員である以上、やはりそのいくつかの課題については、何とかしたいという、そういう意識が霞が関の省庁の全部とは言いませんけど、幹部にはあるんだと思います。その一つが平和条約。 もう一つは、私が感じたことを言えば、日本の国連における安全保障理事会におけるステータス。それを向上させるために、アフリカ対策に拍車がかかったのも一つはそこにあると思っている。 このロシアの平和条約については、国家公務員である以上、自分ができるところで少しでも貢献したい。この気持ちがすごく満ちたものが8項目協力であると。ですから、心は一つになって。そこに国家安全保障局ができて、軌道に乗りました。谷内局長という司令塔がいて、組織としては、官邸がまさに主導で総理が直接自分で交渉し、それを谷内局長が中心に支える体制ができていました。
(※側近が語る「長期政権の舞台裏」③に続く)