BTSを追ってプサンへ! RM映画ワールドプレミア 5000席を埋めたARMYの熱狂
ソロデビュー「自分の未熟さ」と闘うジョングク
秀でた歌唱力とダンススキルでグループのパフォーマンスを支えるジョングクの「I AM STILL」は23年7月にリリースされた初のソロシングル「Seven」からの活動の記録で、最年少メンバーの彼が「BTSの1人」から「1人のグローバルポップスター」へと成長していく姿を描いている。地道な練習の積み重ねが完璧なステージパフォーマンスに結実していくさまは、まるでトップアスリートのドキュメンタリーを見ているようだ。 末っ子メンバーとして先輩たちに育てられてきたジョングクは、一人で世界と向き合うプレッシャーや自分の未熟さを口にする。ソロデビュー曲のレコーディングでは高音域や英語の発音に苦戦し、「思っていたより、いろんな声を出せなかった」。喉の不調も抱えつつ、披露の日を迎える。だが、ひとたびステージに立てば、楽曲は完全に彼の血肉となっている。「繰り返し練習すると、曲と一つになれる」。リリースするシングルは全米で次々と記録を樹立。ビルボードHOT100の10位内に3曲をチャートインさせた唯一のK-POPソロアーティストになった。 レコーディング関係者は、トップスターであり続ける人間の共通点をこう語る。「試練に耐え、努力を惜しまず、決してうぬぼれない」。そのすべてが彼にあると評価した。プサン出身の内気な少年時代から彼を育ててきた、BTSの振付師として彼を育ててきたソン・ソンドゥクは「眠っていた潜在力が爆発した」と成長を振り返る。
坊主頭が示す半島分断の現実
映画館の大スクリーンで極上のパフォーマンスを堪能できるのも、本作の大きな魅力だ。とりわけニューヨーク・タイムズスクエアで23年11月に行われたゲリラライブの場面は、まるで居合わせているような臨場感だ。ライブのうわさを聞きつけた市民たちが路上を埋め尽くし、その様子を高層ビルから見つめるジョングク。緊張と興奮を高めたまま特設ステージへ。マイケル・ジャクソンをほうふつさせるパフォーマンスに群衆は熱狂し、歌声と歓声が湧き起こる。 終盤、華やかな映像は一転し、バリカンの音が響く。ヘアスタイリストは涙をこらえきれず、坊主頭になったジョングクは彼を抱きしめる。どんなに功績を残したアーティストであれ、韓国人男性として逃れることのできない兵役という義務。華やかなエンターテインメント作品にも、朝鮮半島の分断という現実が映し出される。 BTSはメンバー7人のうち、最年長のジンが今年6月に、J-HOPEが10月に除隊し、新たなソロ活動を始める。残る5人の服務期間は25年6月までとされ、所属事務所は同年中の「完全体」としての活動再開を目指している。個性と魅力の異なる7人がソロ活動を経て再結集した時、まだ誰も見たことのないBTSの世界が幕を開けるだろう。
毎日新聞客員編集委員 磯崎由美