BTSを追ってプサンへ! RM映画ワールドプレミア 5000席を埋めたARMYの熱狂
自分は「間違った場所」にいるのか
組織や集団の中で「自分はこの場にふさわしくない人間なのでは」という違和感を覚えることは、誰にでもあるのではないだろうか。だが見方を変えれば「間違っているのは場所のほうで、自分は正しい」かもしれない。何が正しく、何が誤りかは考え方によって変わる。単語を入れ替えることで生まれるそんなメッセージに、ラッパーとして言葉を紡ぐことにたけるRMらしさがのぞく。 13年にデビューしたBTSは不遇の時期をバネに海外進出に成功し、米グラミー賞にも3年連続でノミネート。RMは英語が堪能なリーダーとして国連スピーチに立ち、海外メディアのインタビューでもグループを代表する発言を担った。一方、人気を理由に韓国国会では兵役免除の議論が起き、世論の反発も買った。 アルバムリリース時、彼が後輩メンバー、ジミンとの対談でこう打ち明けていたのを思い出す。「みんなが僕に期待しているのは、スピーチ、英語、勇気ある発言。でも僕はただのしがない、韓国に住んでいる29歳の男なんだよ。このままいったら、本当に耐えられなくなる」
東京の団地で河川敷で 日常に溶け込む29歳
ソウル、東京、ロンドン。カメラはアルバム制作の舞台となった都市を巡る。東アジアのインディーシーンで活躍するアーティストらと作り上げた楽曲はBTSとは異質だ。音楽の世界観を、映像のざらついた質感やアニメーションが彩る。 日本人観客の目を引いたのは、写真家・水島貴大によるコンセプトフォトの撮影シーンだろう。場所は東京都大田区かいわい。河川敷のブランコで、団地の空き地で、色あせたシャツをまとった「29歳の男」が東アジアの下町の日常に溶け込んでいる。撮影中の彼の前を住民が通り過ぎるが、誰も彼がBTSのリーダーとは気づかない。スタッフの証言や映像から伝わる彼の天然ぶりに、会場から笑いも起きた。 「今回の作業をしながら、僕はone of the “Right” peopleになったと思う」。本編上映前のインタビュー映像でそう語ったRM。ありのままの自分を見つけ、解き放たれた笑顔に観客は安堵(あんど)しつつも、背負ったものの重さにも思いをはせる。日本での公開は25年1月の予定だ。