渡辺恒雄氏の「代表作」は昭和59年の年頭社説 読売の現実路線転換表明として保守派評価
この社説は当時、保守派に大きな反響を呼んだ。京都産業大の漆山成美教授は「朝日に代表される左翼偏向報道で日本の世論が染め上げられていくことは決して好ましい現象ではない。そういう中で、サンケイ、日経に加えて、読売新聞が『自由の擁護』へと論調を軌道修正しつつあることは歓迎すべきことだ」(「改革者」7月号)、評論家の片岡正巳氏は「ほとんど画期的と言ってもよく、新聞史あるいは社説史に残るであろうと言っても、決してオーバーな表現ではないと思う」(「月曜評論」1月23日号)と賛辞を送った。
一方で共産党機関紙「赤旗」は1月5日付で「『サンケイ』主張顔負けの社説が『読売』社説である」「中曽根内閣が『戦後政治の総決算』の名のもとにすすめようとしている日本の政治・経済・社会の反動的再編成と大軍拡の方向に、完全に迎合したものであり、それを積極的に推進する役割をかってでたものといわざるをえない」と激しく非難した。
■歴史認識、安倍談話に影響
渡辺氏はこの年の2月に開かれた日本新聞協会主催の「日米編集者会議」の基調報告で、社説と同じ安全保障論を展開した上で、社会党の非武装中立論を評価する朝日新聞を公然と批判した。
以来40年、読売は渡辺氏の主導で、自衛力保持を明記した憲法改正試案を発表するなど、少なくとも外交・安全保障の面では産経に近い現実路線をとるようになった。
しかし、先の大戦の歴史認識では違った。戦後60年となる平成17年から1年間にわたって読売に連載された大型企画「検証・戦争責任」の書籍版のあとがきで渡辺氏は、満州事変を日本の侵略と断じ、米国による原爆投下は日本が降伏をためらったからだとした。
靖国神社について「(戦争責任者が)頑迷な宮司によって、犠牲となった戦没者の霊と合祀された。そこを国の最高権力者が公式参拝することが、近隣国との大きな外交摩擦の因となっている」などと書いた。
検証・戦争責任の歴史観は27年の安倍晋三首相の戦後70年談話の内容に少なからぬ影響を与え、保守派の間で賛否両論を呼んだ。(渡辺浩)