容疑者や被害者の「卒業アルバム」報道 その背景と課題
無差別な殺人や通り魔などの犯罪が起きると、被害者や加害者の顔写真がしばしば報道されます。マスコミはさまざまなルートから顔写真を入手していますが、少なくないルートが「卒業アルバム」。卒アルの写真を用いる報道には、「興味本位」「被害者をさらし者にするのか」といった批判が少なくありません。
前橋市で2014年末、高齢の男女3人が刃物で殺傷された事件。容疑者として26歳の無職男性が逮捕されると、その顔写真があちこちで報道されるようになりました。出所のはっきりしないものもあるようですが、「卒アル」と明示した報道もありました。 例えば、朝日新聞の2015年1月15日朝刊。その福島版には「高校の卒業アルバムに『授業風景』として載っていた」というキャプション付きで、机に向かう容疑者の写真が掲載されています。容疑者が一時福島県で暮らしていた関係から、記者は「関係を訪ね、足跡をたどった」そうで、記事には「暴力的、すぐキレる」「おとなしいが頑固」といった容疑者の印象をかつての級友らが語った、とされています。 顔写真だけではなく、この容疑者が職を変えながら生計を立てていた際、ラーメン店に堤出した履歴書の一部を写真付きで報じたメディアもありました。 こうした例は、容疑者のみにとどまりません。例えば、昨年6月には熊本県で起きた女子高校生殺害事件で、被害者の生徒の写真が広く報道されました。読売新聞の西部本社版は「中学でソフトテニスをしていた頃」の女子生徒の写真を「卒業アルバムから」と明示して報道しています。
容疑者の顔写真を、警察が記者クラブ所属のマスコミに提供していた時代もあったようです。1980年代初めごろまでのことだと思われますが、逮捕後に撮影した写真をモノクロの紙焼き写真で希望する記者に非公式に、しかし半ば公然と渡していた、と言われています。 直接の写真提供が影を潜めてからは、容疑者の護送日時やルートをあらかじめ記者側に伝え、護送や連行の場面を撮らせるケースが増えてきました。新聞は写真があれば済みますが、テレビは「動く映像」を欲します。一方で、警察も「犯人逮捕」をPRしたい。その双方の利害が一致した結果が、「護送や連行を撮らせる」です。かつてリクルート疑獄で東京地検に逮捕された故・江副浩正氏は著書「リクルート事件・江副浩正の真実」の中で、検察施設へ連行される際、マスコミに上手に撮影してもらうことを検事がしきりに気にしていた、と明かしています。被疑者側による同様の証言は珍しくありません。