irienchyが東名阪福ツアー完遂、ファイナル東京公演で切り開いた新たな一面
自身初の試みでラブソングを4カ月連続リリースし勢いに乗っているirienchyが、その新曲「コイ夏」「曖昧 me mine」「ダメラブストーリー」「ANSWER」とともに東名阪福を回る『irienchy presents「愛がちょっと足りないんじゃない?」TOUR』を開催。ファイナルとなったワンマンライブ、11月1日(金)東京・Shibuya eggman公演の模様をレポートする。 【画像】irienchy、ツアーファイナルライブ写真(全10枚) 開演時刻を少し過ぎた頃、まずはたくさんの観客が集まった会場のステージに、諒孟(Gu&Cho)、井口裕馬(Ba&Cho)、本多響平(Dr&Cho)が姿を現す。そして、荒々しいフィードバックノイズから切り込むハードロッキンなインストセッションを届けたのち、宮原颯(Vo&Gu)も加わり「よろしくーーーっ!」と第一声。驚いたのは、ここでもうひとつ気分を上げるため、ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」を、“このまま君とずっと 答えのない旅に出かけよう”とirienchy独自の日本語詞でカバーし始めたことだ。 胸躍るオープニングを経て、本多が作詞・作曲を担当した新曲「ダメラブストーリー」へ。1ミリも着飾ることのない、まっすぐすぎる愛情表現がピュアに解き放たれ、“最底辺の僕が ギュッて君を抱きしめて 愛してるって 何度だって叫んであげるから”と4人が声を揃えて歌う。そんな力いっぱいのプロポーズを受ければ、聴く側の心もみるみるうちに開き、フロアに笑顔と手拍子があふれ出す。 「みんな、ここがどこか、俺たちが誰か、教えてください!」――もはや恒例となった宮原の問いかけ「ここ誰ん家ー!?」に、オーディエンスが「イリエンチー!!」と返すやりとりがたまらない「ライライライ」で、ハッピーな空気をじんわりと染みわたらせ、ラブソング4連作のスタートを飾ったサマーチューン「コイ夏」も軽やかに聴かせる。Shibuya eggmanでのワンマンは3回目の彼らだが、その都度アップデートしたライブを見せてくれて嬉しい。一新されたステージ衣装もいい感じ。 「『愛がちょっと足りないんじゃない?』ツアーへようこそ。この名前、ウザいと思ったやろ(笑)。でも、これには裏テーマがあって、嫌なことが起きたときとかね、ついそう感じてしまいがちなんだけど、足りないものに目を向けても仕方ないっていうこと。今の自分を一つひとつ見つめていったら、きっと感謝がいっぱい出てくるはず。愛を持っているんだと気づく日にしましょう!」 ツアータイトルの真意が宮原から明かされ、続いては諒孟が手がけたオルタナティブ色の濃い「キャンパスノート」、井口が手がけたバンドのポップさが一段と際立つ「ヒトミシリ流星群」を披露。フレンドリーにライブを進めながら、4人それぞれが曲を作れるirienchyの強み、メンバー個々のカラーも鮮明に印象づけていく。 まさに“愛がちょっと足りないんじゃない?”の歌詞を含む「曖昧 me mine」の演奏前には、この新曲に込めた想いを語る宮原。好きだから相手をもっと知りたくなったのに、近づいた結果として思いも寄らず嫌な気持ちになったりもする。そうした恋愛のやっかいな矛盾に触れつつ、「知らなくていいことをあえて聞かないままで終わらせたりとか、曖昧さを楽しんでほしいという応援ソングです」と伝え、irienchyならではの温かなサウンド、めんどくさい自分をチャーミングに描いた表現によって、心地よい余韻を生み出すさまは見事だった。 「ダメラブストーリー」の続編で、自分を大切にしてくれる人への感謝が滲む「ANSWER」も素晴らしい。弱さを強さに変えていきたいという肯定のメッセージを信念としてきたirienchyだが、今回のラブソング4作においてもその根幹はブレていないことが、「完璧じゃないところもちゃんと愛せたときが、本当の愛なのかなって思いました」と話す宮原の言葉、“カッコ悪くていい”と優しく寄り添う歌から汲み取れる。 また、ラブソングというテーマに挑む中、メンバー同士でほぼしてこなかった恋バナを共有し内面を曝け出し合ったこと、人と人の関わりを意識的に扱ったことで、お互いの理解度が深まったのか、以前にも増してバンドがバンドらしくなり、さらに風通しのいいアンサンブルが生まれていたのが新鮮だった。愛を掲げた繊細な楽曲だからこそ、諒孟、井口、本多が綿密にアイコンタクトを交わし、宮原の歌をより引き立てようとしていて、4人の結束力が改めて見えた気がする。初期のナンバー「風」もダイナミックに化け、セットリストにしっくり馴染む。