がん治療の進化で大きな課題も 新たに発症する病気と高額費用にどう向き合うか
日本人の2人に1人がかかると言われるがん。近年、医療技術の進歩で、がん患者の生存期間は大きく延びた。それに伴い、大きな悩みも出てきている。一つはがんが引き金となって心臓病や脳梗塞を発症する問題。もう一つは治療が長引くことによる費用の問題だ。がん治療の「その先」の課題に向き合う医師や患者を取材し、実情に迫った。(ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
年間約240万円の抗がん剤治療
滋賀県に住む元会社員の清水佳佑さん(40)は2016年末、会社の健康診断で肺に影があると聞き、耳を疑った。当時30代と若く、自覚症状もなかったからだ。年が明けて精密検査をしたところ、肺がんと診断された。2カ月後、呼吸困難に陥り緊急入院。がんが肥大化して心臓の外側の心膜に達する合併症「がん性心膜炎」になっていた。肺がんのステージは最も進行した4だった。 「もう生きられないんじゃないかと思った。子どもたちや家族のためにエンディングノートと遺書も書きました」 2017年6月、肺の腫瘍を切除し、同年末からは抗がん剤治療を開始した。これまで4年間で使った抗がん剤は3種類。医師からはその時点で最善と考えうる抗がん剤を提示され、途中まではよく効いた。いま使っている、薬物を効果的にがん組織に運ぶ「分子標的薬」も効果が持続している。 ただ、仕事を続けるのは難しかった。治療に専念するため、2017年2月から会社を休み、休業補償が切れた2018年10月に退職した。抗がん剤治療を始めて10カ月ほどだった。
「治療の選択肢があるのは、生きる希望です。でも、30代半ばにして働けなくなりました。肺がんと診断された後に休職して治療に備えていたところ、心臓の合併症で4度緊急入院しました。年末に心臓が持ち直して抗がん剤治療を始めたら、吐き気をはじめとする副作用が強く仕事に復帰できなかったんです」 当初使っていた抗がん剤は一回20万円強。年間で約240万円に上った。検査代などもかかる。自己負担額は約65万円だった。日本の医療制度には、所得や年齢に応じた自己負担額の上限額をひと月のうちに超えたとき、超えた分の金額が払い戻される「高額療養費制度」がある。清水さんも同制度を利用し、負担を軽減させてきた。 現在は3種類目の抗がん剤を使っている。進行がんは治療にゴールがなく、清水さんは3週間に1度薬を投与するサイクルを繰り返す。いまは「薬と付き合う人生」だという。 「心臓の合併症で末期の状態になった時は、4歳と1歳だった息子たちに『僕が父親だった記憶が残らないかもしれない』と悲しみに暮れていました。だけど、診断から間もなく5年。生きているのは、進歩を遂げている医療のおかげです。一方で、治療費を払い続けながら2人の子どもをどう育てていくか。治療期間が延びていくほど、がん以外の悩みも増えてきますね」