進む「農福連携」、農業の雇用創出と障がい者の自立を両立させるアプローチとは
花や茎の向きをそろえるなどして、全体のバランスを整える「仕立て」も、難易度の高い作業の一つ。胡蝶蘭の花びらは繊細で、少し触れただけでも傷ついてしまう。作業は常に緊張感と集中力を伴うが、社員たちはそれぞれの役割をテキパキとこなす。 胡蝶蘭チームの技術リーダー的な存在が、廉谷貞治さん(43)。精神障がいを患い引きこもり生活を送るなど、「これまでのキャリアはブランクだらけ」(廉谷さん)だった。しかし、20年4月に帝人ソレイユに就職し、初めて専門性のある仕事を任されたことに喜びを感じている。
今では後進の育成役も務める廉谷さん。自分が教えたメンバーが上達していくのが何よりの楽しみだという。 そんな教え子の一人であるEさん(21)は、2年前からポレポレファームで働く。精神障がいのため集中力を欠くなど思うような仕事ができず、胡蝶蘭チームでも最初は苦労の連続だった。升岡さんや廉谷さんなどが辛抱強く指導した結果、一人で効率的に作業をこなせるようになった。 ある日、Eさんは自分で仕立てた胡蝶蘭を購入し、祖母の誕生日にプレゼントした。祖母は感激し、「もう死んでもいい」と口にしたそうだ。「こんなに喜ばれるんだなと。それから自信がつきましたね」とEさんは少し照れながら話す。
胡蝶蘭を最後まで使い切る新商品
胡蝶蘭はフラワーアレンジメントの商品にもなっている。担当するのは浮ケ谷萌さん(27)。学習障がいがあり複雑な作業は苦手だったため、多種多様な作業があるポレポレファームに帝人ソレイユの本社から異動してきた。 「芸術系が苦手で、自分に務まるかなと思いました。でも、私が作ったものをお客さんが喜んでくれている姿を見て、もっと頑張ろうとやる気が湧きました」
食用バラにリピーターも
栽培する野菜やバラも地元の人たちに認知されてきた。 我孫子市内にあるフレンチレストラン「テガーレ」では、ポレポレファームの野菜をふんだんに使った魚料理や、バラの花びらを散りばめたデザートを提供している。特に評判が良いのがバラで、リピーターも多いという。「バラってよく料理に使われていますけど、実際には食べて、ウッとなることが多いです。でも、ここのバラは臭みやアクがなくて、食べやすいです」とシェフの越路宏和さんは言う。 「うちの店は花の好きなマダム層がよくいらっしゃいます。バラを使ったデザートを出すと、キャーッと歓声が上がりますよ(笑)」