事業承継は「単なる経営者交代」ではない…企業が内包する価値・成長力・人的資源を引き継ぐ方法
「権限の委譲」「後継者育成」は、事業承継の重要な要素
事業承継とは、経営者が経営責任と経営権を後継者に移譲するプロセスです。 このプロセスは、創業経営者タイプと二代目以降の経営者タイプに分けられ、それぞれに独自の課題があります。創業経営者は、ビジネスを立ち上げた情熱を持ち、しばしば承継を躊躇します。一方、二代目以降の経営者は客観性を持ちながらも、既存の経営資源への依存や自身の立場への意識の希薄さに直面することがあります。 権限の委譲と後継者育成は重要な要素で、とくにファミリービジネスでは後継者の選定と育成が計画的に行われます。後継者は、他社での経験を積むことにより、多様な視点を獲得し、自社を客観的に評価する力を養います。この経験は、後継者が事業全体と文化を理解し、従業員との関係を築くうえで貴重です。 利害関係者との関係構築も事業承継には不可欠です。従業員、仕入先、顧客、金融機関、株主、地域社会といった各ステークホルダーとの関係は、後継者の認知と信頼を得るために重要です。後継者は、これらの関係を維持・発展させることで、事業の安定と成長を図ります。 さらに、イノベーションは事業承継において中核となるテーマです。新しいアイデアやビジネスモデルを生み出すことは、長期的なビジネスの成功に不可欠です。後継者は、先代から受け継いだ事業を基盤としつつ、現代の経営環境に適応した変革を実施する必要があります。 企業価値評価は、プライベートバンキング業務において重要な役割を果たします。投資家が創業家一族に限らず、一般投資家も含まれるため、異なる立場からの企業価値の見方が必要です。プライベートバンカーは、顧客との対話を通じて、創業者や後継者の経営能力やビジネスモデルの持続性を含む定性的な評価を行う必要があります。
「企業価値」「事業価値」を評価する、さまざまなアプローチ
企業価値と事業価値の評価は、投資家が獲得できるキャッシュフローを測定するものです。これは、企業が事業活動を通じて生み出す付加価値だと言うことができます。株主価値は、企業価値から有利子負債を差し引いたものと定義されます。 プライベートバンキング業務における企業価値評価は、特に中小企業にとって重要であり、イノベーションや知的財産を活用したビジネスモデルの評価が中心となります。資金調達、M&A、IPOなどのシナリオでは、適正な企業価値の評価が企業と社会の両方に利益をもたらします。 企業活動の事業性を評価する際には、経営者の資質やビジネスモデルのみならず、市場や競争環境、技術力、財務状態、組織力、販売戦略など、多角的な視点が求められます。これらはすべて、将来のキャッシュフローの予測と密接に関連しています。 企業価値を評価する方法にはいくつかの代表的な手法があります。その中でも、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチは、とくに重要です。 マーケットアプローチは、市場での同種または類似の企業の情報に基づいて企業価値を評価する方法です。マーケットアプローチの代表例は、マルチプル(倍率)方式です。ここで使う倍率には営業利益倍率やEV/EBITDA倍率などがあり、業界平均や類似企業の倍率を用いて企業価値を計算します。そこに非事業資産価値や有利子負債を考慮に入れ、さらに非流動性ディスカウントを減算し、支配権プレミアムを加算します。 インカムアプローチでは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を評価します。インカムアプローチの代表例は、ディスカウントキャッシュフロー(DCF)方式です。これは、企業が将来生み出すと予想されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出する手法です。割引率には、加重平均資本コスト(WACC)が使用されます。 コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)は、企業の資産の再調達コストに基づいて価値を評価します。このアプローチは、主に資産が事業価値の主たる源泉となる企業に適しています。 岸田 康雄 公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
岸田 康雄
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