サブスク時代になぜ?レコード鑑賞会が人気 中島みゆきさんの曲に「涙が止まらない」 人々を引きつける理由は
青春の思い出を重ねて語り合う
お年寄りらが集まり、レコードを鑑賞する活動が長野県内各地で盛んになっている。インターネットを通じて多彩な音楽がサブスクリプション(定額制)で手軽に聞ける時代に、かつて聴きなじんだレコードの曲に青春の思い出を重ね、泣き笑いしながら語り合う―。退職後の充実した生き方を模索する男性たちをはじめ、障害者らも巻き込みつつ交流が広がっている。 【写真】レコードの音に耳を澄ませる鑑賞会の参加者たち
目を閉じて聞き入る
君に逢(あ)いに行かなくちゃ―。11月15日、北安曇郡白馬村の施設「ノルウェービレッジ」。井上陽水さんの「傘がない」が室内に響き、約20人が目を閉じて聞き入った。発表は1972(昭和47)年。学生運動が下火になり、社会問題と自らの願望のはざまで揺れる若者の迷いが表現されている―。選曲した上水内郡小川村の江成康明さん(74)はそう紹介した。
同じ時代を生きた仲間と若き日を共有
「おとはこ」と銘打ったレコード鑑賞会は、大北地域などの有志が2022年から月1回開き、この日が31回目。住民から寄付されたレコードは約500枚に上る。参加者は曲をこれらの中から選んだり、一押しの1枚を持参したり。曲にまつわる思い出も語ってもらう。主催団体代表の伊藤公平さん(76)=北安曇郡松川村=は「同じ時代を生きた仲間と若き日を共有できる。うれしくて、また街に出たくなる」。
リタイア後の男性の社会参加を後押し
県内各地に広がるレコード鑑賞会は、県シニア大学の卒業生が中心となり運営。伊藤さんもその一人だ。同大を運営する県長寿社会開発センター(本部・長野市)のシニア活動推進コーディネーターが、リタイア後の男性の社会参加を後押ししようと働きかけ、開催地は佐久や上小、木曽地域など県内全域の20カ所余りに及ぶ。
心の奥底にしまい込んだ痛みや悲しみ、音盤に乗せて…
同センターが参考にしたのが長野市東和田で鑑賞会を開いていた丸山幹雄さん(72)の取り組みだ。地区役員だった丸山さんは、プレーヤーが壊れた後も思い出の音盤を手放せない住民がいることに気付いた。私物のプレーヤーを持参し、地元公民館で17年から不定期で鑑賞会を開いてきた。鑑賞会の広がりについて「心の奥底にしまい込んだ痛みや悲しみを、音盤に乗せて告白したい人がたくさんいるのかな」と話した。