金銭面でも設備の面でもハードルは大きく低下! 今こそ会社員も「多拠点ライフ」を実現すべき理由
「この地域に住むとしたら?」という目線で、ワーケーションを
──会社員だといきなり多拠点ライフは難しい方もいるかと思います。そんななかでも「分散する生き方」を実践していくには、どんな一歩を踏み出すとよいでしょうか? 最初の一歩は、暮らしのシェアリングサービスの活用です。これまで2つの拠点を持つことは、別荘を買うとか維持費が2倍になるなど、ハードルが高いものでした。それに対し現在は、『多拠点ライフ』でも紹介したADDressやHafH(ハフ)のような多拠点生活を楽しめる住まいのサブスクが増えています。自分で家を用意しなくても、飛行機や電車でふらっと出かけてもう1つの家を持てるのです。 また、旅行のときに、金曜をワーケーションにして土日を観光に充てるといったこともおすすめです。「この地域に住むとしたら?」と考えてみる。すると、ホテルの探し方一つとっても、仕事ができる環境があるか、Wi-fiが使えるかなどアンテナが立ってくるし、その地域の見方が変わってきます。旅行の延長線でのワーケーションなら、気軽に始めやすいと思います。 多拠点サービスを実際に使ってみると、企業で勤めている方を含めて多種多様な人が利用しているとわかるし、自分に近しいロールモデルに出会えるようになります。 ──個人だけでなく企業経営者にも、多拠点ライフを促すメリットはありますか。 従業員が多様なフィールドの知識やつながりを得て、それを自社にフィードバックしてもらえるのは、大きなメリットです。また地震などの不測の事態に備えるうえでは、オフィスを手放して従業員が多拠点生活をできるようにすれば、固定費を大幅に下げられて、柔軟な経営体質を築きやすいのではないでしょうか。 ■地方で得られた、「何者でもない自分を受け入れてもらえる感覚」 ──石山さんご自身も、東京都・渋谷のシェアハウスと大分県・豊後大野市の古民家に住まいをかまえています。多拠点ライフをしていてよかったことは何ですか。 1つは、地方で感じられる「何者でもない自分を受け入れてもらえる感覚」でしょうか。東京のような大都市では、自己紹介でも、自分の仕事が何なのかを語ることが求められます。しかも、東京では、世代やセグメントの同質性が高いコミュニティが多いものです。一方、地方なら、名刺もほぼ必要なく、温泉でたまたま居合わせた人とのたわいもない話から、多世代の人とのつながりが生まれることが多々あります。 もう1つよかったのは、自分の手で生活を作っていく安心感を得られることです。大分では、お米や野菜を作ったり空き家をDIYしたりして、半自給自足の暮らしができます。長引く物価高騰のなか、すべてを消費でなくDIYでも得られることは自信にもつながるのです。 ■DIYを楽しんでいる石山さん ──多拠点ライフを送ることで、ご自身の仕事に活きている点はありますか。 地方には、地球の生態系に基づいた知識や、「あるもの」を利用する文化が根付いています。SDGsのような話は、地方の農家さんがすでに実践しているケースもしばしば。社会課題の解決に活かせる知恵にふれることは、仕事にもよい影響を与えています。 また、BtoCのサービスなら、生活者に対する想像力が求められます。地元のスーパーやスナック、温泉などで色々な生活者の視点を知ることは、自社のビジネスを考えるうえでリアリティのある気づきを与えてくれます。 ──石山さんの共同コミュニティ「Cift(シフト)」の活動や「拡張家族」の概念に共感を覚えています。家族の多様なあり方が認められる社会に向けて、今後どんなことが必要だとお考えですか。 昔は家族6人くらいで1人の子どもを育てていました。いまは核家族が主流なうえに、共働きが増え、夫婦二人で何もかも支えなければならない状況です。育児や介護の負担が大きいと、負担や期待の押しつけ合いが起きてしまう。大事なのは、こうしたつらさを、いかに複数の人でシェアしていけるか。