畑を守る壮大な「防風林」激減している背景は?
農機スマート化でデメリットも
農業がつくり出す北海道の特徴的な風景、防風林。歴史は明治期の開拓初期にさかのぼり、北海道十勝地域の景観として観光にも貢献してきたが、近年、その面積は激減しているという。作物や土壌を風から守る防風林がなぜ減っているのか、探ってみた。 【グラフで見る】帯広市の耕地防風林の変遷 帯広市と帯広畜産大学の調査によると、同市内の農家が所有する「耕地防風林」は、2008年からの9年間で85キロ(28%)減少した。 北海道十勝総合振興局が、21年に管内のJA青年部に実施した防風林についての調査では、52%が利点より欠点の方が大きいと回答した。農家が感じる欠点(複数回答)には「日陰による生産量の低下」87%、「畑に葉や枝が落ち、生産性悪化」75%、「大型機械の衛星利用測位システム(GPS)の精度低下」67%などがあった。 GPSの精度低下は、スマート農業機器の普及が進む近年ならではの事情だ。十勝管内のあるJAの担当者は「今後も農機の大型化や高精度化で防風林は減っていくのでは」と推測。土が飛ばない粗い砕土など、防風林がなくても営農可能な新たな作業体系が必要だとする。加えて、高さ30メートルにもなる木の枝を落とす枝払い作業といった苦労もある。 ただ、JA担当者は「防風林が不必要というわけではない」と強調。防風林の維持に対して、必要な重機の購入助成などを行政に期待する。落葉しないアカエゾマツなどの樹種の活用や、植樹したのに枯らすことがないよう、農家の栽培技術支援強化も訴えている。
畑全体に及ぶ利点 どう残せるか模索を
芽室町でテンサイや小麦など約41ヘクタールを営む平井裕文さん(57)は昨年、農地3カ所で計300メートル分の防風林を植え替えた。ただ、干ばつの影響もあり多くが枯れてしまい、新たに植え替えが必要になった。「雑草が多い場所に植樹するため草刈りと一緒に苗を切ってしまうこともある」と苦労を吐露。それでも「風害防止になるため防風林は大事だ」と、栽培には前向きだ。 森林総合研究所(茨城県つくば市)の岩崎健太主任研究員によると、防風林は肥沃(ひよく)な土が飛ぶのを防ぐ他、苗の損傷や作物倒伏などの風害防止に有効だ。農地の地温維持や、土煙による交通事故の防止にもつながるなど、多くの畑では欠点より利点が大きいとする。 岩崎研究員は「欠点が目に付きやすいが、利点は畑全体に及ぶ。伐採すると、(植え直して)十分な機能を発揮するまで10年以上かかる。邪魔だから切るではなく、どうしたら残せるかを考えてほしい」と話す。 <取材後記> 大規模化でスマート農業の普及が進む十勝地域。GPS精度を低下させるとして、防風林の伐採が加速する。農家の代替わりで、防風林の役割について認識が薄まったことも背景にある。 防風林の維持には、その役割を農家がしっかりと把握することが重要だ。スマート農業への影響や収量低下などデメリットは目に付きやすいが、風害防止などのメリットは目に見えない。最近ではスマートフォンで防風林の効果を把握できるアプリなどもあるため、それらを活用してほしい。 防風林を植樹する場所は雑草が生い茂る地で、素人目にも栽培の困難さを感じた。行政には苗木代の補助だけでなく、植樹から維持管理までのトータルサポートの強化を期待したい。 (関竜之介)
日本農業新聞