セブン-イレブンの「5度目の正直」、コンビニ淹れたてコーヒーを成功に導いた学びとは
結果としては失敗ですが、「一定量は売れた」という一筋の光明があったことから、1988年頃に再び淹れたてコーヒーに挑戦しました。注文の都度作る方が効率が良く、(1)常に新鮮さを保持できる、(2)余ったコーヒーの廃棄ロスを減らせる、(3)衛生管理が容易になる、といったメリットがあると考えられました。そこで、ドリップ方式が採用されます。しかし、店内に焦げたような香りが漂ったことから、またもやこの企画は中止となりました。 おそらくセブン-イレブンは、ここまではコーヒー専門店の市場を獲ることを考えていたはずです。しかし、コーヒー専門店と同じやり方では無理があると気付きました。コンビニに合った手法を選ぶ戦略に改めます。カートリッジ方式を採用し、1990年頃に3度目の挑戦を試みましたが、失敗しました。カートリッジ方式ではコーヒー豆を粉末状に加工するのですが、肝心の風味が失われ、味が落ちてしまったそうです。「三度目の正直」という言葉があります。大抵の企業は、3度目に失敗すればあきらめることが多いでしょう。 しかし、2000年頃からスターバックスを含むコーヒーショップの大躍進が始まり、エスプレッソやカフェラテが人気を集めました。セブン-イレブンはこれを見て、商品をエスプレッソやカフェラテに変えて4度目の戦いを挑んだのです。 これが、「バリスターズカフェ」です。エスプレッソタイプ(圧力抽出式)のカートリッジを採用し、セルフサービスで提供しました。しかし、これがなんと一店舗あたり一日25杯しか売れなかったのです。店内のコーヒー売上比率を見ると、97%が缶コーヒー。バリスターズカフェは3%しか売れず、大敗北となりました。 エスプレッソは万人受けしませんでした。日本人の嗜好(しこう)にはペーパードリップ式の方が合うと考え、美味しくて飲みやすい、本格派のコーヒーで勝負すべきだと考え直したのです。そこで、外食産業で人気を博す200社のコーヒーを徹底的に分析し、飲みやすさと飲み応えの最適なバランスを追求しました。それが5度目の挑戦となり、現在の「セブンカフェ」の成功につながります。 セブン-イレブンは過去4度の失敗から学んだ知見を財産とし、コンビニが提供するのに最適なコーヒーの味を見出しました。ここから電機メーカー、焙煎技術を持つメーカー、商社などと連携して「コンビニ専用のコーヒーマシン」を開発したのです。3社と連携するオープンイノベーションです。2012年8月に北海道、秋田県、鹿児島県で先行導入し、手応えを得て2013年から全国に展開しました。 もしセブン-イレブンが電機メーカーなどに開発を丸投げしていたら、コンビニ淹れたてコーヒーは成功しなかったのではないでしょうか。4度の失敗から学んだ財産がなければ、この連携は不可能だったはずですし、新しい市場の創出には至らなかったでしょう。
古庄 宏臣/川崎 真一