拳銃奪われ意識不明、復帰した巡査長が知る被害者の〝心の痛み〟 大阪・交番襲撃事件5年
大阪府警吹田署の千里山交番で令和元年6月16日、警察官が男に包丁で刺され、拳銃を奪われた事件から5年がたった。一時意識不明の重体だった同署地域課の古瀬鈴之佑(こせ・すずのすけ)巡査長(31)が、事件後初めて取材に応じた。自責の念から一度は辞職を考えた。胸の刺し傷は肺を貫通。後遺症のため刑事になる夢も断念した。その代わり、新たな使命を見いだした。「誰よりも被害者に近い警察官でありたい」。そう語る古瀬さんの口調は屈託なく、明るい。 【写真】事件後、ラグビー関係者から届いた大漁旗。応援のメッセージが寄せ書きされている 「登録していない番号からの着信は赤く光るから安心ですよ」 先月27日午後、吹田市内の家電量販店。防犯機能付きの固定電話機を選ぶ80代女性の傍らに、古瀬さんの姿があった。 現在は同署で防犯指導を担い、特殊詐欺被害防止活動の先頭に立つ。「ディスプレーが大きいから文字も見やすい」。まるで孫のような距離感で女性の要望に親身に応じる。「にいちゃん、ほんまに優しいな。ありがとうな」。女性の感謝の言葉に古瀬さんの表情も緩む。「喜んでもらえたら、それでええんです」 巡査だった5年前の早朝、「空き巣」の虚偽通報を受けて交番から現場に向かおうとした。バイクにまたがると、後ろから「おい」と声をかけられた。振り向くと男が包丁を振り下ろしてきた。 馬乗りで胸や腕を刺された後、男が腰の拳銃に手を伸ばした。必死に抵抗したが、大量出血で力が入らなかった。 搬送中に意識を失い、目が覚めたのは病室。まもなく同僚から、肺の一部を摘出したこと、そして拳銃を奪われたことを告げられた。 「警察官辞めるわ」。男は事件翌日に身柄を確保されたが、古瀬さんは自分を責め、見舞いに来た母親にそう伝えた。 高校では全国大会にも出た屈強なラグビー選手。陽気な性格を知っている東海大ラグビー部時代の恩師が古瀬さんのもとに駆け付け「それで辞めるキャラじゃない」と励ました。当時の同僚や上司も「君は悪くない」と何度も言ってくれた。全国からの応援の手紙は、100通近くに上った。 復職を決意し、リハビリに専念。肺の一部摘出により息が上がりやすい後遺症を抱えながら、事件から7カ月後の令和2年1月に職場復帰を果たした。