拳銃奪われ意識不明、復帰した巡査長が知る被害者の〝心の痛み〟 大阪・交番襲撃事件5年
それから防犯指導に従事する中で気付いたことがある。特殊詐欺の被害に遭った高齢者が自身の経験を話そうとしないかわざと自虐的な笑いに変えること。一見明るい表情に隠された心の痛みが古瀬さんには分かった。
後遺症の影響で「もう刑事にはなれないけど」と一呼吸ついた上で、これからは犯罪被害者の支援に携わりたいと古瀬さんが目標を教えてくれた。事件で負った傷は容易には癒えない。「それを知る自分だから、できることがあると思う」
■安全対策進む「治安の要」
交番や駐在所の警察官が狙われる事件はその後も相次いでおり、安全対策の強化が図られている。
大阪府警は千里山交番の事件後、府内全ての交番・駐在所(600カ所超)に防犯カメラを設置。敷地に不審者が潜伏できる暗がりをつくらないよう、バイク置き場などにセンサーライトも取り付けた。
また令和4年度以降に設計された新設交番には、来訪者と警察官の執務スペースの間に透明の遮蔽(しゃへい)板を設置。ドアを通らないと直接接触できない構造にすることで、警察官の不意を突こうとする最初の一撃をかわしたり、応援要請の時間を確保したりする目的がある。既存交番でもアクリル板の衝立を導入している。
さらに、リスクのある「1人交番」をなくすため、4年度から約10年かけて、交番・駐在所の約1割(約60カ所)を統廃合する再編計画をスタートさせた。
1人交番を近くの交番と統合して複数人勤務の交番を増やしており、府警の担当者は「もし拳銃を奪われれば地域住民の安全が脅かされる。襲撃リスクを減らすことが第一だ」と強調する。
交番襲撃を巡っては、平成30年6月には富山県警の交番で男が警察官を刺殺した上、奪った拳銃で警備員を射殺。宮城県警でも同9月、交番の警察官が刺殺される事件が起きている。警察庁はこうした状況を受け、拳銃が奪われにくい構造に改良した拳銃入れの配備など対策を進めてきた。(中井芳野)