マッチングアプリ同様定着進むか ― ペアーズがマイナカードでのオンライン本人確認を開始
恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」が、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(ICチップ読み取り)によるオンライン本人確認を、従来手法に加えて開始した。 【もっと写真を見る】
恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」が、2024年8月22日、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(ICチップ読み取り)によるオンライン本人確認を、従来手法に加えて開始した。 現在政府が、「携帯電話不正利用防止法」や「犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律等)」における“非対面”での本人確認を、マイナンバーカードの公的個人認証で一本化する方向性で進める中、マッチングアプリ事業者でもペアーズが先んじて導入を決めた。 ペアーズを運営するエウレカの代表取締役CEOである山本竜馬氏は、「ユーザーにとっても、我々にとっても、一番簡単で安全なのがマイナンバーカードのICチップ読み取り。なるべくこの方式を使ってもらえるよう推進していく」と語る。 マイナカードでの本人確認の仕組み、政府が推奨するより安全で簡単な認証サービス ペアーズが今回の新しい本人確認のために採用したのが、ポケットサインの提供する「PocketSign Verify」だ。ポケットサインは、総務省・デジタル庁より、公的個人認証サービスにおける「プラットフォーム事業者」の主務大臣認定を受けており、マイナンバーカードの利活用を専門に事業を展開している。 ポケットサインの代表取締役CEO/COOである梅本滉嗣氏は、本人確認の仕組みにおける大事なポイントとして、「マイナンバーとマイナンバーカードは別物」だと前置きする。 公的個人認証サービスではマイナンバーは利用せず、マイナンバーカードのICチップに搭載されたアプリケーション(公的個人認証AP)を用いて、ユーザーから提供される電子証明書の有効性を確認する。「ひとことで言えば実印と印鑑証明書をデジタル化したもの」と梅本氏は例える。 この仕組みにより、成りすましや改ざん、送信否認の防止を担保して、オンラインでの本人確認を実現する。電子証明書の有効性を確かめる署名検証者は民間企業にも開放されており、ポケットサインのようなプラットフォーム事業者が、他の民間企業からの署名検証業務を受託できる。 加えて、ICチップは高度な改竄・偽造防止措置が施されて偽造は困難であり、アプリとカードのみで本人確認検証が即時完了して、撮影の手間も要らない。また、住民票を持つ実在する人物の正しい情報が基になるため、未成年や生成AIなどの最新技術による登録も防ぐことができる。 PocketSign Verifyは、この本人確認の仕組みを、事業者のスマートフォンアプリに直接組み込めるサービスだ。他のアプリのダウンロードや連携は必要としない。梅本氏は、「事業者向けのプラットフォームサイトを構築しており、登録するだけで即日開発ができる環境を整えているのが特徴」と説明する。 PocketSign Verifyにおける本人確認の流れは、まず、ユーザーがマイナンバーカードをかざすと、本人性を証明する署名用電子証明書が作成される。これがペアーズを経由して、ポケットサインに署名検証が委託される。ポケットサインは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)と連携しながら、電子証明書が失効していないか、偽物でないかを確認。その結果がペアーズを通してユーザーに伝えられる。 政府自身がこうした公的個人認証サービスの民間利用を推し進めており、現在導入する民間事業者は569社に上る(2024年7月8日時点・デジタル庁より)。 マッチングアプリの事業者に対しても、2024年6⽉18⽇の犯罪対策閣僚会議において、公的個⼈認証サービスなどによる不適正利⽤対策に取り組むよう言及されており、結果的にペアーズはいち早く対応した形となる。 ペアーズがマイナカードによるオンライン本人確認に踏み切った理由 インテージの2023年10月の調査によると、マッチングアプリは、結婚相手に出会ったきっかけとして、日常生活の出会いに次いで2位に。実に4人に1人がマッチングアプリから結婚に至っており、一時期の怪しいイメージを払拭して「出会いの手段」として浸透しつつある。 一方で、ロマンス詐欺をはじめとする不正利用リスクへの対策は不可欠であり、ペアーズを運営するエウレカも啓発活動や自治体や有識者との連携などに加えて、最新テクノロジーを用いた安全性の強化に注力している。 これまでも、身分証明書と顔認証によるオンライン本人確認を、AWSの機械学習を用いた画像・動画分析サービス「Amazon Rekognition」を活⽤して強化したり、AIによる自動検知や目視によるカスタマーケアを組み合わせて悪質な利用を監視してきた。 そして今回新たに、マイナンバーカードの公的個人認証によるオンライン本⼈確認を開始した。決め手となった理由は2つだ。人口に対するマイナンバーカードの保有枚数の割合が74.5%に達し、運転免許証と同等の普及率になったこと。そして、デジタル庁による独自アプリの展開や、公的個人認証サービスを担う事業者が増加するなど、マイナンバーカードを民間利用する体制が整備され始めたことだ。 ペアーズでの、マイナンバーカードによる本人認証の流れは次のとおりだ。 まず、マイナンバーカード作成時に設定した署名用のパスワードを、続いてマイナンバーカード自体に記載されている照合番号Bの情報(有効期限の西暦・セキュリティコード)を入力する。その後、カードをスマートフォンにかざして、認証が通れば本人確認は完了する。従来手法では1時間かかることもあった審査時間が即時完了し、撮影も不要になるため、場所を選ばずに認証できるようになる。 マイナンバーカード情報は、生年月日、性別、顔写真を本人確認のために取得する。特に生年月日は、インターネット異性紹介事業を規制する法令に基づいて、利⽤者が18歳以上であることを確認する⽬的で利用。一方で、マイナンバーや入力した暗証番号は取得しない設計になっている。 ポケットサインの梅本氏によると、ペアーズのマイナンバーカードによるオンライン本人認証はマッチングアプリ業界初となり、同社には金融・保険といった分かりやすい業界から意外な業界まで、幅広い企業から引き合いが来ているという。例えば同社は、ゴルフダイジェスト・オンラインにおける、ゴルフ場でのマイナンバーカードを活用した顔認証の実証実験にも協力している。 今後も政府の働きかけやペアーズと同様の決断をする企業が増えることで、この新たな本人確認は拡大していき、マッチングアプリ同様に定着化していきそうな流れだ。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp