パリで活躍したデザイナーがようやく見つけた終の棲家
「まず気に入ったのは、小高い山の上にあるので、海を見下ろせるロケーション。それからお茶室があったことも私としてはラッキーでしたね」 流派にこだわらない自由な茶人としても活動している藤澤さんは、四季折々の茶事をここで行うことも。亭主としてお茶をたてるだけではなく、懐石料理も自ら料理し、ふるまう、フルコースの茶事を開いています。
「もともと茶道や仏教など、日本の伝統や文化が大好き。日本のものが美しいと思うようになったのは、20代のころパリで暮らしていた、その反動もあるのかもしれません。いまこうして自然の中に身を置いてみると、自分の日本人としてのアイデンティティーを日々強く感じますね」
1階にリビングダイニングキッチンと茶室、2階に寝室、書斎、ゲストルームという一軒家には、休日ごとに海外からのゲストや友人たちが来訪。そのたびに料理上手な藤澤さんは魚市場で求めた鮮魚の刺身や、新鮮な野菜、そして大好きなシャンパーニュでもてなします。 「みなさん喜んでくれます。それと自慢は温泉を引いているお風呂ね。ウチの温泉で温まったら風邪ひかないんですから(笑)」
「創作のインスピレーションを得るためにも年に何度か海外へ旅しますが、国内の温泉旅館には行かなくなった」と笑う藤澤さん。たしかにこんなすてきな温泉付き物件に暮らしていたら、どこへも行く必要がないかも。パリから東京へ、そして伊豆へと……ライフステージに合わせてそのスタイルも変えてきた藤澤さんの“現在”がここにあります。
● 藤澤龍一(ふじさわ・りゅういち)
1952年北海道生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、渡仏。ジャン・ルイシェレルのアシスタント・デザイナーとして研鑽を積む。1980年帰国。アパレルのデザイナーとして活躍したのちに、「ランバン」のコーディネーターやPRを経て、イベントプロデューサーとして独立。1997年株式会社「RFプロデュース」を設立。2014年末に事業を整理し、現在は、墨絵アーティストや茶人として新たなクリエイティヴ活動を開始している。
写真/平郡政宏 文・編集/秋山 都