吉田麻也の交代は懲罰か?
犯した2つのミス
選手交代を告げるボードに、自身の背番号である「22」が灯っている。ウルグアイ代表に3点目を奪われた直後の後半12分。故障以外では初めての途中交代を告げられたDF吉田麻也(サウサンプトン)は、無念さを胸の奥底に閉じ込めながらDF伊野波雅彦(ジュビロ磐田)にバトンを託した。 「センターバックなので最後の90分まで出たかったけど……別に不満はありません」 試合後の公式会見。アルベルト・ザッケローニ監督が、異例とも言える交代の意図を説明する。 「予定通りです。伊野波を見たかったので、吉田を90分間使うつもりはなかった」 [図、写真]ウルグアイ代表が本気になる理由
額面通りに受け取るわけにはいかない。1失点目と3失点目はともに吉田のイージーなミスから献上したものだった。今年に入って失点の連鎖が途切れない中で、防げるはずのゴールを許した吉田への懲罰の意味が込められていた交代と推測してもおかしくはない。 両チームともに無得点で迎えた前半27分。敵陣で日本が得た右からのスローインをインターセプトしたDFディエゴ・ゴディンが、前線へロングパスを送る。右サイドバックの内田篤人(シャルケ)は、スローインを投げるためにポジションを上げていた。内田がいたスペースに張り付いていたのは、点取り屋のFWルイス・スアレス。吉田はポジションを上げ、スアレスをオフサイドのポジションに置いていた。 「オフサイド!」 しかしながら、アピールは通じない。センターバックを組む今野泰幸(ガンバ大阪)が後方に残っていたからだ。昨シーズンのプレミアで2度対戦し、その狡猾さ、ゴールへの貪欲さを「ヤバい」と警戒していたはずのスアレスに完璧に裏を突かれ、吉田は遅れを取ってしまう。 一直線に日本ゴールへ迫るスアレス。今野が何とかシュートコースを防ごうと間合いを詰めた直後に、スアレスは右側をフォローしてきたFWディエゴ・フォルランへパスを送る。左サイドバックの酒井高徳(シュツットガルト)の必死のカバーも届かず、W杯南アフリカ大会の得点王に易々とゴールを割られてしまった。 この時、吉田は2つのミスを犯していた。今野の位置を確認せずに安易にポジションを上げたこと。そして、スアレスをケアしにいった今野に代わり、フォルランへのパスコースを消す動きを怠ったことだ。ゴールされるまでの一連の動きの中で、スアレスに追いつけないと観念した吉田は、なぜかスピードを緩めてしまっている。 スアレスは吉田と今野との間に生じた「ギャップ」を虎視眈々と狙っていた。 吉田は最初の失点シーンをこう振り返っている。 「相手が蹴った時にはオフサイドと思いましたけど……そういう(ポジションの)ズレは試合の中で多々あると思うんですけど、そこから何度も抜けだされる場面があったし、最後にゴールに結び付けられるようなミスにならないように、途中で食い止めなきゃいけないんですけど」 ウルグアイが誇る強力2トップを個で止めるのは難しい。一人がチャレンジにいけば、もう一人はカバーに回る。試合前日には組織で止めることを宣言していたのは吉田本人だった。頭では理解しているのに、試合の中で実践できない。致命的なミスを繰り返す自分自身へのもどかしさが、吉田の言葉の端々から伝わってくる。では、何をどうすべきだったのか。 今野に考えを聞いてみた。 「マイボールの段階でも後ろの人間はしっかり準備しておく。いつどんなことがあるか分からないから。リスクマネジメントをしっかりしながら、ということコンフェデで学んだつもりなんですけど。まだまだですね。あんな簡単に、しかも2人で点を取られてしまったわけだから。ポンとクリアしたボールを2人で仕留められてしまったわけだから。同じやられるにしても、しつこく対応してやられたかった」 お互いの位置を確認した上で、ウルグアイが2人を前線に残していたならば、左サイドバックの酒井をもっと中央に絞らせておくべきだった。今野によれば、先制点を許した場面について、ハーフタイムには前線の選手たちから苦言にも近い意見が寄せられたという。 「それまでは悪くなかったのに、簡単にやられすぎたから、戦い方が変わってしまったと。追いかけなきゃいけない、攻めなきゃいけなくなって、ゲームプランが狂ってしまったと」 後半7分には、左サイドから上げられたグラウンダーのクロスを吉田が中途半端にクリア。これがスアレスへの絶好のパスとなり、ダメ押しとなる3点目を決められた。タッチラインの外へクリアしてもOKな場面だったのだが、集中力を欠き、プレーそのものが軽かった。吉田と伊野波の交代が告げられたのは、この5分後だった。