呼吸荒い無言の110番…23歳巡査の忘れられない通報 “初動の要"福岡県警・通信指令室
ヘッドホンから聞こえる声だけでなく、背後のわずかな音に耳を澄ます。事故か事件か。現場に警察官を急行させるべきか。24時間体制で110番を受ける福岡県警通信指令課はまさに「初動の要」だ。昨年の1日の平均受理件数は1572件。単純計算で55秒に1回の頻度で通報が入る。緊張感漂う通信指令室を取材した。(小笠原麻結) 【写真】複数のモニターで110番を受ける受理台
☎受理と指令を同時に
「車と自転車が衝突しました」「店内に怪しい人物がいます。万引犯かもしれません」 6月中旬の午後。県警本部の通信指令室には、ひっきりなしに110番が寄せられていた。837、838、839…。県内の地図が表示された大画面の上部に、刻々と増えていく受理件数が映し出されている。昨年の受理件数は57万3858件。全国で7番目に多かったという。 通信指令室は通報を受ける「受理台」と、指示を出す「指令台」の二役に分かれる。受理台では、通報者から現場の情報を詳しく聞き取り、端末に入力。同時に共有される情報を基に、指令台が現場に警察官を派遣するかを判断して、近くにいるパトカーや管轄の警察署に無線で連絡する。 被害の拡大を防いだり、犯人を早期に逮捕したりするためには、通信指令室が迅速に判断し、警察官が現場に早く着く必要がある。受理から到着までの「リスポンス・タイム」は全国平均を22秒上回る9分20秒。村田重則次席は「地域の実態を的確に掌握し、県警全体が初動捜査の重要性を認識している結果だろう」と胸を張る。
☎無言の通報どう判断
昨年、通信指令課に配属された月俣真梨巡査(23)には忘れられない通報があるという。 その110番の主は何もしゃべらなかった。「どうされましたか」と何度声をかけても、無言。いたずらだろうか。よく聞くと、呼吸が荒いようだ。「声を出せなければ、受話器を3回たたいてください」。それにも反応はない。焦りが募る中で、先輩教官に教わった言葉が頭をよぎった。 「常に最悪を想定しろ。現場確認が全てだ」 位置情報から現場を絞り、警察官を派遣した。近隣住民への聞き込みなどから、日常的に交際相手の女性からDVを受けているという男性からの通報と特定。無事に救出した。 同課によると、無言の通報は少なくない。判断するための情報が乏しいため、危機的なケースなのか、単なるいたずらなのかを見分けるのは容易ではないという。月俣巡査は「自分の判断は間違っていなかった。ほっとした」と振りかえる。