デジタルスキルが皆無の管理職でもまだ間に合う…専門家が「ここから始めよ」と断言するDX資格の選び方
■リーダーに求められるのは「おしながき」の読み方 DXが喫緊の課題であることは誰もが理解しています。でも、具体的に誰が/どんな手順で/どうやるかを決めようとすると、議論は途端に前に進まなくなるのです。原因は組織間の連携にあります。 経営陣はDXを進めようと賑々しい戦略を立てます。最近の中期経営計画には各企業が競うように、AIを活用した成長戦略が描かれています。その大筋に沿って各部門が展開しますが、メンバーシップ型雇用ですから、基本的には現有戦力で対応することになります。 ところが、経験のない分野で何をどうしていいかがわからないうえに、既存のビジネスの停滞も許されない。従来のやり方で成果を上げながら、変革も進めなければならないのです。 中でも多くの企業で強い影響力を持つ現場の事業部は、眼前の課題の対処と売り上げ確保に必死で、よくわからないテクノロジーには拒否反応があったりします。特に現場叩き上げの40~50代リーダーにその傾向が強く、リーダーの意向に沿って動くチームのメンバーもリスキリングに積極的になれないのです。 しかし、今ここで踏み出さなければ、10年後、いや5年後にはその仕事がなくなっている可能性があります。いつまでも会社の体質や制度のせいにしていても解決にはなりません。現場のリーダーが腹を決めてテクノロジーに向き合うか、「俺はアナログ人間だ。デジタルはようわからん」と匙を投げるかで、自身と職場の将来は大きく変わってくるでしょう。 日々の生活でも電子決済が普及したり、リモートワークが可能になってずいぶん便利になったでしょう。あなたの仕事の領域にも活用できるテクノロジーがあるはずです。それを探してみてください。 何を隠そう私自身、かつてはDXに懐疑的でした。「生成AIが商談の下敷きを書いてくれて、営業の生産性が上がる」と聞いても「そんなものに意味があるのか?」と訝しく思っていました。ところが、避けられぬ道と覚悟して一歩を踏み出してみたら、多くの発見があったのです。 商談のデータを蓄積し、成果が出たケースではどんな提案をしていたか共通項を抽出する。誰かが新たな商談に臨む際にはデータと照合して、有効なプレゼン資料を数秒で作成できるのです。経験豊富なベテランのノウハウを、新人も活用できるようになりました。人材育成のスピードが上がり、人を増やしても生産性が下がらなかったのです。 慢性的に人員不足に悩んでいたり、スキルの継承が課題になっている職場で、生成AIは大きな助けになるでしょう。DXでどんなメリットが得られるかは職域・職場によってさまざまであり、一概に言うことはできません。ですが何かしらできること、やるべきことはあるはずです。 リーダー自らがプログラミングを覚えたり、コードを書いたりする必要はありません。最新の技術では何が可能になっているのか、それを自分の職場に活用したらどんなことができるか、誰に任せたらそれが実現できそうか……など。「テクノロジーのおしながき」が読める知識を備えることが第一歩です。 まずIPA(情報処理推進機構)がネット上で公開している「デジタルスキル標準(DSS)」を読んでみてください。経済産業省が策定した「デジタル社会で求められるスキル」を体系的にまとめたもので、自分に必要なスキルを明確にし、学習計画を立てることができます。 次に書籍やネット記事、YouTubeなどで、初心者にもわかりやすく解説した情報にあたってください。専門的な相談に乗っている機関や企業でアドバイスを受けるのも一つの手です。TOEICのスコアアップを助けるスクールがあるように、DXのリスキリングを支援するノウハウもあるのです。 さらに意欲的に取り組みたい人はITに関する基礎的な知識が証明できる「ITパスポート試験」や、テクノロジーを構造的に学ぶことができる「AWS認定クラウドプラクティショナー試験」、徐々に増えてきた生成AIに関連する試験に挑戦してみるのもいいでしょう。その先は難易度がかなり高くなりますが、企業の経営戦略にITをどのように活用してビジネスを成功に導くかという能力を測る「ITストラテジスト試験」もあります。 現場のリーダーが前向きにリスキリングに取り組み「やってみよう」と呼び掛ければ、チームのマインドセットは確実に変わります。過去の成功体験が通用しなくなるのは仕方のないことです。これからは過去からではなく未来を学ぶ。今こそあなたが、その先頭に立つべきです! ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 柿内 秀賢(かきうち・ひでよし) パーソルイノベーション Reskilling Camp Company代表 ラーニング関連事業の事業開発責任者として、法人向けリスキリング支援サービスを企画、立ち上げて現在に至る。自身もDXプロジェクトの企画推進、新規事業開発などを担う過程でリスキリングを体験。 ----------
パーソルイノベーション Reskilling Camp Company代表 柿内 秀賢 構成=渡辺一朗