デジタルスキルが皆無の管理職でもまだ間に合う…専門家が「ここから始めよ」と断言するDX資格の選び方
DXの導入、活用が企業の喫緊の課題となる中、そのためのスキルを持つデジタル人材の数は圧倒的に不足している。ならば、今いる社員で賄うしかない。ではどうやるか? 人繰りに悩める管理職が行うべき「最初の一歩」とは? 【図表】日本企業は組織間の連携が課題 ■英語学習ブームに続く学びのブームは起こるのか 今はどの業界・どの職場でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が課題になっています。特にここ数年は生成AIが目覚ましい進化を遂げました。 2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授とカール・フレイ博士が『雇用の未来』という論文で「今後10~20年の間にアメリカの総雇用者の約47%の仕事が機械に置き換わる」と主張して、世界中で大きな議論を巻き起こしました。最近の生成AIの進化は、その時期を大幅に前倒しするだろうとも言われています。 米マッキンゼー社が昨年7月にリリースしたレポート(※1)によると、生成AIの登場は顧客オペレーション、マーケティングおよびセールス、ソフトウエアエンジニアリング、研究開発の4つの機能で、仕事を改革しパフォーマンスを飛躍的に向上させる可能性があるとしています。 特にセールス部門(営業)では年間の労働生産性が5%向上するとされています。このカテゴリに属する人数を考えれば、膨大な数の人が変革を受け入れて順応するか、転職を迫られることになるでしょう。ですが、こういう事態は今日に始まったことではありません。 自動車が登場したときには御者が仕事を失いました。自動交換機が発明されると電話交換手が、電算写植が普及すると植字工が仕事を失いました。新しい技術が登場すると、失われる仕事があるのはいつの時代も同じです。ただ、AIが及ぼす変化はその範囲が広大で、速度がこれまでの比ではないというだけです。 技術の進化に伴うニーズの変化に対し、世間では「リスキリング」の重要性が説かれています。有効でなくなった知識や技術を手放して(アンラーニング)、新しい知識や技術を獲得する「学び」のことです。 今日ほど、あらゆる職域でリスキリングが求められたことは過去に例を見ません。にもかかわらず、日本のビジネスパーソンは世界でも突出して「学んでいない」ことが、パーソル総合研究所の調査(※2)で明らかになっています。 自己啓発活動を行っているかを聞いた問いに「何もやっていない」と答えた人の割合は46.3%で、他国を引き離しています。仕事が忙しすぎるから? いいえ、週当たりの労働時間は39.0時間で、同調査対象国・地域では最下位です。学ばないのは時間がないから、という言い訳は通用しそうにありません。 私は日本独特のメンバーシップ型雇用や、学びが昇進・昇給に結び付かない評価システムが、根本的な原因であると考えています。新卒時にはどこの学校を卒業したかが重要視され、一部の職種を除けば何を学んできたかが問われることはあまりありません。新入社員はまっさらな状態で入社し、会社色に染まることが期待されているわけです。転職時では実績や実務経験が重要視されますが、一部の士業等を除けば学びが採用の決定打になることは稀です。 在職中の評価制度も同じです。半期/通期でどれだけの実績を上げたかで、昇進・昇給が決まります。もちろん達成目標で「学び」の項目が設けられることはあるでしょう。けれど「学びの目標は未達だったが売り上げ目標は大幅に上回った」は高評価されても、その逆はありません。 他の先進国で主流のジョブ型雇用では、ポジションに報酬が紐づいています。社内昇格でもまずオファーがあり「この職種/職位に求められるスキルはこれで、報酬は○万ドルです。あなたは条件を満たしていますが、受けますか?」と聞かれ、Yesと答えた瞬間に収入が跳ね上がります。ですから、そのポジションや待遇を得るために貪欲に学びます。 対して、日本のメンバーシップ型雇用では、職位や報酬は人に紐づいています。「あなたは○等級ですから、年収は○○○万円。ついてはこの職種/職位を与えます」という順序で人事が決まります。組織内で実績を残し、認められると等級が上がる。等級が上がるか否かは、直属の上司の評価が決め手になります。 良い評価を得たいと思ったら、上司ウケを良くする努力をするでしょう。振られたタスクを確実にこなす、困難なプロジェクトに挑戦して結果を出す、上司の好むスタイルで仕事をする、等々。「学び」にインセンティブがない以上、時間と労力を割こうという人が少ないのも、理解できなくはありません。 過去、ほとんど唯一の例外だったと言えそうなのが、10年ほど前にあったTOEICブームです。評価システムに「○○○点以上」を設ける企業が相次いで、多くのビジネスパーソンが目の色を変えて取り組みました。デジタルスキルでもあれくらいのことが起きれば、DXも一気に進むと思うのですが――。 近年は日本でもジョブ型雇用を導入する企業がありますが、私は今後も多くの企業がメンバーシップ型雇用を継続すると見ています。メンバーシップ型雇用は社員の長期的な育成に繋がり、企業への帰属意識を高めるといったメリットがあります。また、日本の法律や制度が雇用を守る観点から、従業員の流動的な採用や解雇を認めていないからです。 それならそれで、別のアプローチで「学び」に対するモチベーションを高めていく必要があります。あらゆるビジネスがグローバルに展開する中で、日本はDXで大きく後れを取っています。今ここでAIの波に乗れなければ、事業の衰退を覚悟しなければならなくなるかもしれません。多くの企業やビジネスパーソンが分かれ道に立っています。 ※1 McKinsey & Company(2023). The economic potential of generative AI: The next productivity frontier. ※2 パーソル総合研究所(2019). APAC就業実態・成長意識調査