「カフェが混みすぎて座れない」「いじわるベンチを使うのは訪日客だけ」…東京に「座るにも金が要る街」が増えた本質的な理由とは?
渋谷には、いわゆる排除アートやいじわるベンチと呼ばれるものが数多くある。これは、本来なら人が集まる広場に置かれた奇妙なオブジェや、ベンチに付けられた謎の突起物を総称してそう呼ぶ。「アート」と呼ばれてはいるが、実態としては広場に人をたむろさせなかったり、ホームレスがベンチで寝ることを防ぐ役割を持っていて、そこから「排除」という言葉が付けられている。 排除アートについて精力的に発言をしている建築史家の五十嵐太郎は、こうした排除アートの代表例として、渋谷マークシティの東館と西館の間にある「ウェーヴの広場」を挙げている。さらには、本文冒頭で私が見た、渋谷公園通りにある座りにくいベンチもこの1つだろう。これらは若者やホームレスがそこに滞留するのを避けるためのオブジェである。
五十嵐によれば、こうしたオブジェは1990年代後半から街で見られるようになったという。その理由を五十嵐は次のようにまとめる。 1990年代後半から、オウム真理教による地下鉄サリン事件を契機に、日本では他者への不寛容とセキュリティ意識が増大し、監視カメラが普及するのと並行しながら、こうした排除形のアートやベンチが出現した。(『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』p.21/2022年・岩波書店)
排除アートは、街の治安向上や、人々の防犯意識の高まりを反映しているのだ。 ■誰のための排除アートなのか? 特に渋谷に限っていえば、もともと1990年代あたりの渋谷は「ジベタリアン」の聖地ともいわれる街だった。もはや死語だが、ジベタリアンとは「地べたに座る人々」のことで、センター街を中心にそこらじゅうに若者が座ってたむろしていた。 この光景が変わり始めるのが、2003年あたり。当時の石原都政化で、新宿歌舞伎町を中心とした「浄化作戦」が行われ、クリーンな街並みが目指されていく。まさに人々の防犯意識の高まりを反映した政策だった。そして、それと連動する形で排除アートが増えてきた。