「ピンピンコロリ」は決して幸せな死に方ではない…62歳で狭心症になりステントを入れた医師が痛感したこと
■脳卒中は要介護になる可能性が高い 循環器病のなかでも、特に脳卒中は、運よく命を取りとめたとしても要介護になることが多い。2019年国民生活基礎調査によると、介護の原因となる疾患としては、認知症に次いで、脳卒中は第2位である。しかも、一日中ベッドの上で過ごし、食事も排泄も介護に頼らざるを得ない最重症者は、脳卒中が1位である。脳血管障害と心疾患を合計すると、循環器病は男性の要介護者の32%、女性の場合は15%を占めている。生活の質という観点からも、循環器病の予防は非常に重要である。 ---------- 遠き道百歳迄も生きて来た脳梗塞で苦しみながら 森田きく (小高賢『老いの歌』岩波新書、2011) ---------- もし、麻痺が軽く、短期間で回復すればよいのだが、辛抱強くリハビリを続けても元に戻らないことがある。この歌の作者はこのとき104歳であったという。どんなに辛いことであったであろうか。 ■循環器病は発作を繰り返すことが多い 心臓の役割は、全身から集まった血液を肺で酸素化して全身に送り出すことである。それが十分にできない状態を心不全という。心臓の機能が落ちて収縮力が低下すれば心不全になる。心筋が肥大して拡張力が低下しても心不全となる。血管の動脈硬化、腎機能が落ちても心不全になる。 心不全の症状は、血管内に水分が多く溜まりすぎることによる。全身がむくみ、ちょっと動いただけでも疲れ、呼吸が困難になる。肝臓のうっ血による腹痛、腹水が溜まることによる不快感などの症状が日常活動を脅かす。その影響は全身に及ぶ。心不全の治療は、安静にして心臓の負担を減らし、利尿剤で血液の量を減らすことが第一になる。降圧剤により血管の緊張を緩めて、血液を流れやすくする。 循環器病の発作は繰り返す。図表3は、マーレィの論文を基に、日本循環器学会がより詳しくまとめたものであり。虚血性心疾患、心臓弁膜症になると、突然死をすることがある。心不全になると影響は全身に及び、発作のリスクが残る。 ---------- 黒木 登志夫(くろき・としお) 東京大学名誉教授 1936年生まれの「末期高齢者」(88歳)、東京生まれ、開成高校卒。1960年東北大学医学部卒業。3カ国(日米仏)の5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学、東京大学、ウィスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。しかし、患者さんを治したことのない「経験なき医師団」。日本癌学会会長、岐阜大学学長を経て、現在日本学術振興会学術システム研究センター顧問。著書に『健康・老化・寿命』、『知的文章とプレゼンテーション』『研究不正』『新型コロナの科学』『変異ウィルスとの闘い』(いずれも中公新書)など。 ----------
東京大学名誉教授 黒木 登志夫