熊本地震で開いた「ペットOKの避難所」、物資不足を飼い主がSNSで発信…広がる支援の輪に感謝
熊本市の竜之介動物病院・院長の徳田竜之介さん(63)は2016年の熊本地震発生直後、ペットと飼い主を一緒に受け入れる避難所を院内に開設した。預かったいくつもの小さな命を救ってきた獣医師の信念は「動物の治療を通じて、飼い主の心もケアすること」。この思いを胸に今も第一線に立ち続ける。 【写真】病院をペット同伴避難所として開放した徳田さん。「動物と飼い主に寄り添い続けていく」
熊本地震後に開設したペットと過ごせる避難所には、多くの飼い主が身を寄せた。
「先生、何か足りないものはないの」「じゃあ、発信するからね」。ペットシーツなどが不足すると、彼らが自主的にSNSで発信してくれた。それに応える支援の輪は広がり、様々なペット用品が各地から届くように。福島県から直接、車で持ち込んでくれた人もいた。
避難所の運営は23日間に及び、延べ約1100人と約700匹の犬や猫などが避難した。「まるで野戦病院のようだった。持ちこたえられたのは、避難者の協力があったから」と振り返る。
運営が落ち着くと、震度7を2度観測した熊本県益城町で往診を始めた。負傷したペットを治療し、ペットを失った飼い主に寄り添った。
往診で出会った森永映子さん(78)は、飼い犬3匹のうち、8年間連れ添ったチャピィーを失った。生後約6か月の頃に保護施設から引き取ったミックス犬。人なれしていないためか、かみついたり、一気に食べた餌を吐き出したり。それでも大切に育て、半年後には一緒に散歩に行けるようになった。「手がかかった分、愛情も深かった。そんな私の気持ちを先生は優しく受け止めてくれた」
9月、経営する動物専門学校でペットの慰霊祭を行い、森永さんにはチャピィーとの思い出を語ってもらった。後日、学生らから届いた寄せ書きにはこう書かれていた。「素敵な飼い主さんに出会えて幸せな中旅立ったことでしょう」――。「これでようやく供養ができた」。メッセージを読んだ森永さんは、心を寄せてくれた徳田さんや学生に感謝する。
熊本地震での一連の経験から、ペットと一緒に過ごせる避難所整備の必要性をさらに強く感じるようになった。行政に働きかけ続け、2021年5月、熊本市とペット同伴避難所に関する協定を結ぶことができた。熊本地震でペットと被災者を受け入れた動物専門学校を同伴避難所として活用できる内容で、県内の民間施設としては初めてだった。
「動物病院でも同伴避難所は開設可能と全国に証明できた」。これまでに台風や豪雨などの避難所として計6回開放し、犬や猫を連れた約1200人が利用した。