「独裁」懸念も……なぜトルコ大統領は強権手法を取るのか? 放送大学教授・高橋和夫
トルコのエルドアン大統領の強権的なイメージが際立っています。ジャーナリストの投獄やソーシャル・メディアの一時的な停止などの措置が国内の知識層から、そして国際社会の反発を受けています。 【図解】激動の中東情勢 複雑に絡み合う対立の構図を整理する
国民からの強固な支持
しかしながら8月の大統領選の結果を見る限り、この人物は国内的には揺るぎない人気を誇っています。2000年代の初めからエルドアンの率いる公正発展党は総選挙で勝ち続けてきました。2013年には経済的な首都であるイスタンブールの公園の樹木の伐採をめぐり大規模な反政府デモが発生しました。それにも関わらず、その後の地方選挙では公正発展党が圧勝しました。その上、2014年夏の大統領選挙でも、エルドアン首相が他の候補を問題にせず当選しました。 この選挙で注目されたのは、その得票率でした。一回目の選挙で過半数を得る候補者がいない場合には、二回目の得票数が上位ニ候補による決選投票が予定されていました。しかしエルドアンが過半数の票を得て一発当選を決めたのです。それ以前の選挙では公正発展党は40パーセント台後半の支持を集めてきました。しかし、大統領選挙では、さらに票を上乗せして50パーセントを越える支持率で勝利を収めたのです。内外の批判にも関わらず、選挙の結果が示しているのは、エルドアンへのトルコ国民の強固な支持です。しかも支持基盤が拡大しているのです。エルドアン大統領が強権的とも見える政治手法に訴えている背景には、何にも増して国民の絶対の信任を得ているという自信があるのでしょう。
「ギュレン派」との対立
もう一つの背景は「ギュレン派」と呼ばれる親イスラム勢力との対立です。エルドアンの公正発展党とギュレン派は、よりイスラム的価値を反映した政治を求めて共闘してきました。軍部の政治への介入を排除するという面でも、両者は協力関係にありました。
ところが公正発展党の10年以上にわたる政権下で既に軍部の政治的な影響力は失われてしまいました。また公正発展党だけで選挙に勝てる状況が明確になりましたので、エルドアンはギュレン派を必要としなくなったのです。ギュレン派とはアメリカのペンシルバニア州で亡命生活を送るギュレン師と呼ばれる宗教指導者を慕う人々の総称です。イスラムと近代化の融合を目指す運動で、全世界的な規模で活動しています。トルコ国内では多くの私塾を経営しています。またメディアにも影響力があるとされています。さらに司法当局に多くのシンパを送り込んでいると見られています。昨年来のエルドアン周辺の汚職疑惑の暴露は、ギュレン派の仕掛けた政治的な攻勢であるとも見られています。 国民的な支持の高まりを背景にして、この時期にギュレン派の影響力を削ごうとエルドアンが動いており、その結果が強権的な手法につながっているとの解釈も可能ではないでしょうか。国民の支持が続く限りエルドアンの強硬な手法が続きそうです。