湘南をルヴァン杯決勝へ初進出させた独自「若手育成論」
そして、杉岡と市立船橋高校の同期で、進学した神奈川大学を1年で中退。今シーズンの開幕前に加入したボランチの金子は「自分の特徴を出してチームにいい影響を与えること」と言う。やや言葉足らずの部分を、指揮官は「どんな状況でも前を向いてボールを運ぶこと」と補足する。 現時点でベルマーレにはバイアに加えて、Jリーグでの経験が豊富なMFミキッチ(38)、188cmの長身FWイ・ジョンヒョプ(27)と3人の外国籍選手が在籍している。指揮官が力を込める 「出すぎた杭」を全員が意識した結果、ルヴァンカップの決勝トーナメント以降だけでなく、直近のリーグ戦でも日本人だけの先発メンバーを組む機会が激増している。 グループDを2位で通過した、ルヴァンカップのグループリーグでも2度、日本人だけの先発メンバーを組んだ。そのなかで4月18日に行われたサガン鳥栖戦で送り出した11人が、通称「ベストメンバー規定」に抵触したとして、ベルマーレは6月になってけん責(始末書)と制裁金600万円が課された。 Jリーグ規約第42条で義務づけられた「最強のチームによる試合参加」は、J1では「リーグ戦およびリーグカップ戦における先発メンバー11人は、プロA契約選手または外国籍選手を合計6名以上含まなければならない」と明記されている。 ここで言う「プロA契約選手」とは年俸上限のない選手を指す。Jリーグの新卒選手は原則として、年俸480万円を上限とする「プロC契約」を結ぶ。J1の場合、ルーキーは450分(5試合フル出場相当)で「プロA契約」を締結する権利を得る仕組みになっている。 くだんのサガン戦におけるベルマーレは、A契約選手が4人だった。もっとも、この試合で通算450分出場を坂がクリアし、金子が公式戦初先発を果たしたように、シーズン序盤という事情もあってルーキーたちが基準を満たしていなかった。ルールに対する勉強不足と確認ミスを素直に認めたうえで、曹監督はここでも持論を展開する。 「僕は若いから試合に出しているわけじゃなくて、若くて責任を持てるから出している。偉そうな言い方ですけど、我々指導者がそういう目を向けていかないと、若い選手はいつまでたっても伸びない。若いということは、イコール、ミスもする。それをどう許容するかというのは、指導者やクラブのスタンスが試されていると思うし、だからこそ若い選手たちにはオリジナリティーを出していけと教育しているつもりです」 若手育成への独自のイズムを貫いたベルマーレは、横浜F・マリノスが待つ27日の決勝戦(埼玉スタジアム)の舞台についに駒を進めた。 準優勝ならば5000万円。湘南ベルマーレになって初めて、前身のベルマーレ平塚時代から通算すれば23年ぶりとなるタイトルを獲得したとき、手にする賞金はJリーグへ支払った制裁金の600万円の実に25倍、1億5000万円にはね上がる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)