湘南をルヴァン杯決勝へ初進出させた独自「若手育成論」
「天皇杯(の長崎戦)でもPKを蹴っているので、今回も出番があるかなと若干思っていました。直前でウメさん(梅崎)が外していたので、ちょっと気楽でしたけど」 坂が苦笑いしながら振り返れば、5人目の大役を担った金子も「練習から決めていたので自信がありました」と事も無げに成功させる。果たして、サドンデスに突入した6人目でベルマーレのFW高山薫(30)が決め、延長後半8分に同点弾を決めていたレイソルのFW山崎亮平(29)が外して決着がついた。 「とかく若い選手が、と言われますけど、18歳や19歳はワールドスタンダードで言えば若くはないので」 海外、特に留学経験のあるドイツを中心とするヨーロッパのサッカーに造詣が深い曹監督は、かねてからの持論を試合後の公式会見でも展開した。そのうえで、PK戦に2人のルーキーを含めた3人の若手を配置した理由を、胸を張りながら 「3人とも決めると思っていました」とこう続けている。 「経験のある選手と同じように、彼らには勝負の責任を負わせてきたつもりですし、彼らが外したらしょうがないと思っていました。高校や大学でそれなりの選手だったからプロのチャンスをもらったはずだし、向上心がすごくある選手ですけど、だからと言って僕が『よくやっている』と思って見てしまえば、向上心という火は消えてしまうと思っているので。まだまだ、と言い続けたことが、神様が彼らに決勝の舞台に立てるチャンスを与えたと思っています」 所属するすべての選手たちに対して、最近になって「出すぎた杭になれ」と幾度となく投げかけてきた。言葉に込められた意図を、指揮官はこう説明する。 「チームに合わせるという言葉は一見よさそうに聞こえるけど、ピッチのなかで判断しなければいけないのは選手であり、出すぎた杭くらいに自分に対してハードルを置かないと、勝負への責任を避けてしまうプレーが増える。人間というものは変わることは絶対にないと思っていて、変わったとしたらもともともっていたものが表に出てきただけなので。そうさせてあげることが、僕の一番の仕事なのかなと思って指導者をやっているつもりです」 ならば、若手は「出すぎた杭」をどのように受け止めているのか。J2を戦ったルーキーイヤーから3バックの左、または左ウイングバックで定位置をつかんで離さなかったレフティーの杉岡は、東京五輪に臨む男子代表チームとA代表を兼任する森保一監督(50)も期待を寄せる前への推進力を意識している。 「ガンガン仕掛けるところは磨いていきたいし、アーリークロスなどでアシストもどんどん増やしていきたい。前提となる守備をしっかりとこなしたうえで、攻撃面でもっと存在感を出していきたい」 身長174cmとセンターバックでは小柄となる順天堂大学卒の坂は、ヨーロッパでのプレー経験も豊富な来日4年目のベテラン、アンドレ・バイア(34)からリーグ戦でも完全にポジションを奪っている。 「自分は身長が低いので、機動力やカバーリングの部分で差を出していかなければいけない。出すぎた杭というか、バイアとの一番の差はそこだと思うので、これからも磨いていきたい」