「下町ロケット」題材にも 心臓病の子を救う“新技術”開発の裏側【WBSクロス】
こどもの心臓病手術に使われる心臓パッチ「シンフォリウム」。開発したのは、医師と町工場、大企業の3者で池井戸潤さんの人気小説「下町ロケットガウディ計画」のモチーフにもなっています。今年6月に実用化が始まった「シンフォリウム」の開発の裏側に迫りました。 大阪・高槻市にある大阪医科薬科大学病院で心臓手術の準備が行われていました。患者は2歳の女の子。心臓に穴が開いていて、心臓と肺を繋ぐ肺動脈がないなど複数の疾患がある難病患者です。手術に挑むのは心臓外科医の根本慎太郎教授です。シンフォリウムの発案者で、今回の手術では人工的に肺動脈を作ります。 「肺動脈の下を自己の組織上をシンフォリウムで手術する」(根本教授) シンフォリウムは心臓が開いた穴を塞いだり、血管を広げたりする際に使用される修復パッチのことです。
手術が始まり、女の子の心臓を一時的に停止させます。取り出されたのはシンフォリウム。患部にあったサイズに切り取り、素早い手つきで心臓にシンフォリウムを縫い付けていきます。 シンフォリウムは子供の成長に合わせて約2倍まで伸びるため、再手術のリスク低減になるといいます。処置が終わり、再び心臓が動き始めました。手術は成功です。11時間後、娘と再会した母親は「頑張ったね」と声をかけました。 幼い患者とその家族に大きな負担を強いる心臓手術。従来のパッチは伸びないため、子供が成長するとサイズが合わなくなり、交換のために再手術が必要でした。根本教授によれば「再手術の方が子供には命の危険がある。経済的な負担もある。1回の入院で再手術は500万~600万円かかる」といいます。
再手術のリスク低減に繋がるシンフォリウム。開発の鍵を握っていたのは、この糸が編み込まれたような構造です。開発したのは、福井にある繊維メーカー「福井経編」。創業80年の町工場で衣類などの生地を年間およそ8000トン生産しています。 そもそも繊維メーカーの町工場がなぜ医療機器の開発に乗り出したのでしょうか? 「もう繊維の主力は中国やアジア。生地の付加価値を上げる。リスクはあるが」(福井経編の髙木義秀社長) 衣類の生地の生産だけでは今後の企業経営が難しいという危機感がありました。さらに、開発前に根本教授の心臓手術に立ち会って「患者が生きて帰ってくるかの緊迫感。涙がもう止まらない状態。もうこれはやらなきゃいけない仕事だと思った」(髙木社長)といいます。 しかし根本教授からリクエストされた2倍に伸びる医療生地の開発は険しく、技術者たちは困惑したといいます。