揺らぐ年金制度…世代間の不公平を是正するための制度とは
「マクロ経済スライド」とは何か?
賦課方式をメインとする年金制度は、現役世代が多い時には機能していても、日本のように少子高齢化が進んだ社会では維持が難しくなります。そのため、日本では「マクロ経済スライド」という制度が設けられています。 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。一般に、年金の支給額は物価や賃金の変動に応じて毎年改定されていますが、その改定率から「スライド調整率」*3を差し引くことによって、年金額は調整されています。 たとえば、2023年度の年金額は前年度の年金額を上回りましたが、3年ぶりにマクロ経済スライドによる調整が発動されたことで、実質的には目減りとなりました。 この制度は、2004年度の年金制度改正時に導入されましたが、長期にわたるデフレの影響によって年金額の改定率もマイナス傾向が続いており、過去、実際に発動されたのは4回にとどまります。 しかし、このような仕組みを整備しておくことによって、物価上昇率ほど公的年金は増加しないように抑制されており、年金制度が破綻してしまわないように努められているのです。 *3 現役世代の減少と平均余命の伸びに応じて算出されます。
世界最大級の機関投資家として知られる「GPIF」
現役世代が納めた年金保険料のうち、年金給付に充てられなかった余剰分は、将来世代のために積み立てられています。その積立金を管理・運用しているのが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund)です。 GPIFは世界最大級の“機関投資家”として知られ、運用資産は約200兆円にものぼります。ただし、公的年金という性質上何よりも安全な資産運用が求められており、厚生労働大臣が定めた「中期目標」において、積立金の実質的な運用利回り1.7%*4を最低限のリスクとして確保することが要請されています。そのため、GPIFは長期的な視点に立って、国内外の株式や債券などに分散して投資することで安定的な収益を目指しています。 なお、GPIFはその巨額な運用資産から市場の「クジラ」とも言われており、株式市場等へ与える影響はかなり大きく、多くの投資家によってその動向が注目されています。 *4 「積立金の運用利回り」から「名目賃金上昇率」を差し引いたもの。この1.7%の根拠は示されていません。
宿輪純一