HYDEが突き詰めた完全無欠のエンターテインメント 新たな覚醒を遂げた一夜、幕張メッセ公演を振り返る
90年代から日本を代表するボーカリストとして確固たる地位を築く一方、近年は特にラウド/メタルのアプローチを取り入れ、自身の表現の幅を広げ続けているHYDE。どこまでも貪欲に活動してきた彼の現時点での集大成と言えるのが、約5年ぶりにリリースされたアルバム『HYDE [INSIDE]』だ。SiM、MY FIRST STORY、Crystal Lakeら日本を代表するラウドロックバンドのコンポーザーをはじめ、多彩なクリエイターが手掛けた楽曲が並び、HYDEのキャリア史上最もヘヴィな作品と言える。アルバムリリース前にスタートした全国ライヴハウスツアーで熱を高め続け、ついに完成したアルバムをひっさげて辿り着いた日本公演ファイナル・幕張メッセ2DAYS。そこでHYDEが繰り広げたのは、完全無欠のエンターテインメントショーであり、はみ出し者が集うダークカーニバルであり、血沸き肉踊るロックンロールライヴ――そのすべてを網羅した唯一無二のステージだった。 【写真】スワロフスキーから贈られた特注軍帽をかぶったHYDE! マイファス・Hiroも登場 まずは、「完全無欠のエンターテインメントショー」の部分を担う、HYDEという稀代のアーティストによって計算され尽くした完成度の高さだ。開演前からビジョンにデジタル時計が表示され、16:59をすぎて本来なら17:00になるはずのところ、16:61……と進み、異世界に迷い込んだかのようなムードが漂う。スタートするのは、HYDEを象徴する数字“666”にちなんだ“16:66”。ゆっくりと幕が上がり、サーカステントを思わせるステージセットの中央、巨大な演説台の上にHYDEが現れた。HYDEが観光大使を務めるオーストリアのブランド、スワロフスキーからこのアリーナ公演のために贈られたというデコラティブな特注の軍帽をかぶり、手を差し伸べながら歌うHYDEはさながらこの空間の支配者。昨今当たり前となった巨大なビジョンや映像演出に頼らず、あくまでHYDEとバンドメンバーのパフォーマンスをメインとして、これだけの没入感を生み出すのだから恐れ入る。 ヘヴィな楽曲を繰り出しながらも、繊細なファルセットが響く「THE ABYSS」や、TVアニメ『鬼滅の刃』柱稽古編(フジテレビ系)エンディング主題歌として話題を集めたHYDE × MY FIRST STORYによる「永久 -トコシエ-」での気迫に満ちた低音など、ボーカリストとしての表現力を余すところなく発揮。なかでもハイライトシーンとなったのは、アルバムラストを飾る重厚なバラード「LAST SONG」だ。1曲前の「MIDNIGHT CELEBRATION Ⅱ」で頭から血糊を被ったHYDEが、血塗れの姿のまま歌い上げたのだ。歌詞に描かれた愚かな男をその身に宿し、自嘲と絶望を込めた歌声で圧倒。顔や首筋を滴る赤い筋が、満身創痍にも、返り血のようにも見える。真っ赤な紙吹雪が舞うなか、最後にはステージに倒れ込み、全身全霊で叫ぶHYDEに目が奪われた。バンドサウンドの残響とともに幕が下り、横たわるHYDEが完全に見えなくなるまで、息を呑んで立ち尽くすしかなかった。 「はみ出し者が集うダークカーニバル」とは、HYDEも含めたバンドメンバーたちの自由奔放ぶりだ。今ではすっかりお馴染みだが、怪しげな仮面をつけたバンドメンバーが暴れ回るステージはあらためてインパクトが絶大。しかも、時折ステージを降りて至近距離で煽りにくる。特に、前述した「LAST SONG」のあと、インターバルを挟んで移動式ドラム台が現れた時は度肝を抜かれた。ドラムソロを轟かせながら客席中央に移動し、さらにHYDEとメンバーが登場。ダンサブルな「PANDORA」「INTERPLAY」を披露し、ミラーボールの光も相まって会場は一気に巨大なクラブへと変貌する。 ただパフォーマンスで魅了するだけではなく、隅々までひとり残らず楽しませ、躍らせる。それがHYDEの作り上げるカーニバルだ。メインステージに歩いて戻る途中、観客に向けて水鉄砲を撃ちまくるHYDEの表情はいたずらっ子そのもの。「嬉しいね、こんなおかしなことをしてる連中を支持してくれて!」と笑顔を見せていたが、ここに集まっているのは、ほかにない「おかしなこと」を求めている仲間たちに違いない。