「うちの子は算数が得意だ」と親は信じて疑わなかったのに…中学の計算問題を解けた小学3年生が、中学受験でつまづいた理由
自分の意志を強く持って、自分考えて、行動する。そんな「自律性」を育むために、親は子どもとどう接するべきなのでしょうか?公認心理師として多くの親に子育てをアドバイスする山下エミリさんの著書より、教育熱心な親とその期待に応えていたはずの子の「予想外なその後」について触れた一説を紹介します。 【データ】東大生の幼少期の習い事、1位が水泳、3位が野球。では2位は…? 指先と学力の見逃せない関係 ※本記事は山下エミリ著『子どもの一生を決める「心」の育て方』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです。
先取り教育で計算問題が解けても、身についていない力
幼い子どもに早期教育をさせようとする親御さんが増えています。幼稚園から計算問題をやっているよそのお子さんを見ると、焦る気持ちはよくわかります。人より早く勉強を始めたほうが子どもも後々ラクになるから、と考える方も多いようです。 でも、子どもの心の発達段階を知らないと、せっかく時間とお金と労力を使って始めた早期教育も意味のないものどころか、害になってしまうこともあるのです。 早期教育の中には算数の問題を学年を超えてどんどん先に進めていく先取り学習もあります。 繰り返し教えることで、子どもができるようになったように親には見えているかもしれませんが、それは親の喜びをいっときだけ満足させてくれるだけです。 なぜなら、心理学的に論理的な思考能力がつくのは小学校の高学年くらいからということがわかっているからです。つまり、時間の概念や距離などはよほどの天才でない限り、低学年や中学年ではまだ理解できないのです。 心の発達がわからないと、目の前の問題を子どもが解くことだけに必死になってしまい、応用力が身につく大事な発達の時間を奪ってしまいます。この時期に身につけたいのは、問題を解くような勉強ではなくて、子どもたち同士の関わりや自然と触れ合うことで習得できる非認知能力です。
小学校3年生で中学の問題が解けた子が、なぜ応用問題で躓いたのか?
私の主宰する講座の受講生のお母さんで、お子さんが小さいときから算数の先取り学習をしていた方がいました。小学校3年生で中学校の問題が解けて表彰もされていたために、「うちの子は算数が得意だ」と信じて疑わなかったそうです。 ところが、そのお子さんが中学受験塾に入った途端、算数ができなくて愕然としたお母さん。計算問題はできても、算数の応用問題が実はまったくできなかったのです。子どもの発達を知っていたら、あの学習法はさせなかったのに、と悔やんでいました。 中学受験では思考力を問われる問題がたくさん出てきます。いわゆる「非認知能力」が備わっていないと解けない問題ばかりです。小さい頃に算数の繰り返し計算ばかりやっていたお子さんは、応用で必ずつまずいてしまいます。 論理的な思考能力をつけるためには、計算問題をひたすら繰り返し解かせることではなく、いろいろな体験をさせることが重要です。 その大事な時期に理解ができていない問題を繰り返し行わせ、ただ問題に慣れさせることだけをしていたのでは、その時期に本当に必要な経験を積むことができません。 計算問題をしている暇があったら、きょうだいや友だちと思いっきり遊んだり、家族で楽しい時間を共有したりすることのほうが、ずっとずっと大切です。人との関わりの中で、たっぷりと子どもの将来につながるような豊かな力となる非認知能力を身につけておきましょう。