司書のコレ絶対読んで!「烏は主を選ばない」阿部智里著…壮大な異世界に没中、読書の喜び再確認
三重県立上野高 篠田彩さん
3本足の鳥・八咫烏(やたがらす)たちが暮らす社会を舞台にした和風ファンタジーの第2弾です。悩み多き新米司書時代、現実を忘れて壮大な異世界に没入しました。私にとっては、読書の喜びを改めて教えてくれた作品です。 【画像】篠田彩さん 八咫烏といっても姿は人間で、平安時代に似た宮廷が舞台です。そのトップの後継者である若宮に仕える主人公の少年が、無理難題を押しつけられたり、借金のかたに売り飛ばされたりと、さんざんな目に遭います。やがて若宮を狙う陰謀や策略があらわになり、謎が深まっていきます。黒幕は誰か、信頼できる味方とは――。 まずは、緻密(ちみつ)に構築された世界に圧倒されます。作者はこの「八咫烏シリーズ」でデビューし、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞しました。現在進行形で続編が刊行され、NHKでアニメも放映されています。どこまでこの世界が広がっていくのか、わくわくさせられます。 私が学校司書になって最初の赴任校では仕事になかなか慣れず、初めての一人暮らしが不安でした。そんな中、前任者が生徒向けに書いた推薦文をたまたま見つけ、読み始めました。すぐに八咫烏の織りなす絢爛(けんらん)な宮廷に気持ちが華やぎ、信念にまっすぐ動く登場人物に励まされました。 物語が進むにつれて真相が明らかになっていくスピード感も魅力です。「ぼんくら」と呼ばれる少年の真の姿や、若宮の風変わりな挙動の理由も、鮮やかに種明かしされます。 生徒に具体的な知識を学習させるための読書も大事ですが、シンプルに物語を堪能する「異世界体験」も得がたい時間です。大人の皆さんも、疲れた時に童心にかえって八咫烏ワールドに身をゆだねてください。(聞き手・山本哲生)
【学校の取り組み】
蔵書は約3万冊。伊賀生まれの俳聖・松尾芭蕉や俳句をはじめ郷土資料が充実している。三重県教育委員会の読書活動推進事業モデル校。卒業生には、新感覚派の文豪・横光利一と芥川賞作家の伊藤たかみがいる。 *街や学校の図書館で働く司書の皆さんに、オススメ本を紹介してもらいます。