【解説】「USスチール」買収巡る訴訟の行方 日本製鉄側のメリットとバイデン大統領の狙いは?
──アメリカのバイデン大統領が反対する背景には何があるのでしょうか? 国際部 山崎大輔ワシントン支局長 「ポイントは『労働組合』、そしてライバル企業の存在です。まず全米の鉄鋼業界の労働組合の会長は一貫して買収に反対しています。それからライバル企業『クリーブランド・クリフス』のCEOがUSスチールの買収を狙っていたのですが、日本製鉄に競り負けました。日本製鉄に買われるくらいなら、この話を潰してしまえ、ということで労働組合側と一緒になってバイデン大統領に働きかけを強めました」 「そして、バイデン大統領は自身を『史上最も労働組合寄りの大統領』と呼ぶなど、選挙でたくさん票を入れてくれる労働組合を強力な支持基盤としてあてにしてきました。しかも買収の時期は大統領選挙とちょうど重なった上に、USスチールの本社があるペンシルベニア州は、トランプ氏との選挙戦を左右するいわゆる『激戦州』でした」 ──日本製鉄からすると、いろいろ悪いタイミングが重なったということですね? 山崎大輔ワシントン支局長 「そうなんです。ただ大統領選が終わり、バイデン氏の態度に変化が見られるのではという見方もありましたが、今後の選挙に向けて、労働組合を怒らせたらバイデン大統領の後継者や民主党に票を入れてくれなくなるのも困るという計算もあったとみられます」 「アメリカメディアによりますと、バイデン政権の中でも日本との関係やアメリカ経済の信用を落とすことを心配する閣僚らが、バイデン大統領を引き留めようとしましたが『アメリカ企業を守った功績』を自らの政権のレガシー=遺産として残したくて聞き入れなかったとの見方もあります」
──約2週間後にはトランプ政権が発足します。日本製鉄に巻き返すチャンスはあるのでしょうか? 山崎大輔ワシントン支局長 「トランプ次期大統領は、バイデン氏と同じく労働組合の票を得るため、『買収を阻止する』と明言していて、現在もその考えは変わってないので、方針転換する見込みは少ないとみられます」 ──今後の展開はどうなるのでしょうか? 山崎大輔ワシントン支局長 「まだ裁判のスケジュールはでていませんが、買収の中止命令では30日以内に計画を破棄するよう求めています。なので日本製鉄はまず、訴訟期間中の中止命令の停止を求めることが必要となります」