あなたは本当に「論理的」か?…「攻撃ボタン」実験が明らかにする「持つもの」の心理と人間の誤作動
世界中で平和を望まない人はいない。それなのに、なぜ人は武力を持つのだろうか――。そんな疑問に答えるべく、ある研究者が心理実験の結果をまとめた論文が、国際学術誌「エボリューション・アンド・ヒューマン・ビヘイビアー」に掲載された。そこから見えてきた「持つもの」の心理とは。(デジタル編集部 古和康行) 【一目でわかる】実験のイメージ
もしあなたが武器を持つなら…
「もしあなたが武器を持つなら、私も手にする」。こんなタイトルの論文を執筆したのは、鹿児島大学法文学部准教授の大薗博記氏(社会心理学)らの研究チームだ。
「武力の保有」は、外交上、大きな意味を持つ。例えば、1962年10月に起きたソ連(当時)がキューバへ中距離核ミサイル配備をしようとし、アメリカとの緊張が極度に高まったこともある。結果的に戦争こそ回避されたものの、外交上の駆け引きとして、武力の保有は、切っても切り離せない関係だ。
大薗氏がこの研究にとりかかったのも、ロシアによるウクライナへの侵略で、国際的な緊張が高まっていた時期に武力の保持が話題になったことがきっかけだった。「なぜ、武力を持とうと考えるのか」。武力は他国に対しての「抑止力」として働くというのが通説だが、社会心理学者として、政治や外交以前に、人の心に注目して考えようと思ったという。
実験はインターネット上で、男女182人を対象に行われた。期間は、2022年10月22~24日。実験の内容は、次の通りだ。
〈1〉参加者同士がペアとなり、それぞれ「攻撃ボタン」を持つか、持たないかを選択する。それぞれの持ち点は1500点。
〈2〉攻撃ボタンを持つことを選んだ参加者は30秒間以内に、押すか、押さないかを選択する。持たなければ、することはない。
〈3〉攻撃ボタンを押すと、自らは100点を失うが、押された相手は1000点を失う。互いに押さない場合はそのまま1500点ずつを得る。先制攻撃した方だけが効力を持ち、攻撃された側が後から押しても得点は変わらない。