<わたしたちと音楽 Vol. 44>松尾潔 音楽が与えてくれた、新しい視座と社会の希望
まずは男女の数を平等に、そこから新しい時代が始まる
――あとは音楽やエンタメ業界の管理職層に女性が少ない、という問題が根強く横たわっているのもまた事実です。松尾さんは、この業界で女性が活躍しやすくなるには何が必要だと思われますか。 松尾:フランスのパリテ法(各政党が男女同数・平等な50%ずつの候補者擁立を義務付けられている、フランスの制度のこと)のように、ある一定数の女性の割合を担保するために制度化したほうが良いと思いますね。僕が1980~90年代にアメリカで取材をしていたとき、30~40代のアフリカ系アメリカ人の人たちから「自分は奴隷労働を強いられてきたような家系の生まれだけど、親戚の中でもはじめて自分がアファーマティブ・アクションで大学に入れた」という話を聞くことがありました。彼らは「そういう時代に生きる自分が見てきたことを歌にするのが、自分のミッションなんだ」と熱く語ってくれましたね。アファーマティブ・アクションとは差別の解消に向けて積極的な措置をとることですが、これだけジェンダーギャップ指数が低い日本では、それも必要だと思います。 ――そうですね。松尾さんのように音楽をきっかけに社会の歪みに目を向けられた人がいるように、音楽は人々の意識を変えるのにとても有効なアプローチになり得ると思います。だからこそ、それを生み出す業界の構造から変わっていく必要があると感じます。 松尾:パンデミックの拡大期に「不要不急」とよく耳にしました。たしかに音楽やエンタテインメントは不要不急のものかもしれない。でも僕は政治や経済が“大動脈”だとしたら、毛細血管のように人にしなやかさを与えるものが音楽だと考えています。しなやかさや風通しの良さに欠ける社会は、不自由で息苦しいですよね。
プロフィール
松尾潔 1968年、福岡県生まれ。音楽プロデューサー、作家。少年時代からR&Bやソウルに傾倒し、早稲田大在学中からライターとして国内外で取材活動を展開。評論の寄稿やラジオ・テレビ出演を重ねる。90年代半ばから音楽制作へ。SPEEDやMISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。平井堅、CHEMISTRY、JUJUらにミリオンセラーをもたらす。2008年、EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で、【第50回日本レコード大賞】の<大賞>を、2022年には天童よしみの「帰郷」で【第55回日本作詩大賞】を受賞した。著書に小説『永遠の仮眠』(新潮社)、新刊『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』(講談社)など。
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