世界中の軍部が排出する温室効果ガスは、世界の合計排出量の5.5% 「グリーンな軍部」を目指す米国
的を射た目標を掲げるには、正確な排出量測定が不可欠
そんな中、国が掲げるネットゼロの目標に、軍部のGHG排出量を含める国が増えつつある。しかし今まで排出量を測る義務が課せられておらず、同目標からもはずされてきた軍部は、排出量を追跡・把握する能力がまだ他の産業などと比べて未熟だという指摘がある。 武力紛争や軍事活動の環境的側面を監視し、人々の認識を高めるための団体である、コンフリクト・アンド・エンバイロメント・オブザーバトリー(CEOBS)による「ア・フレームワーク・フォー・ミリタリーGHGエミッション・レポーティング」に寄稿した研究者らによるものだ。 この文書は、軍部がGHG排出量を正確に報告するための枠組みを示している。正確な測定法が確立できなければ、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)への自主的な報告の質が下がる。 北大西洋条約機構(NATO)は、昨年7月に気候危機の影響評価をまとめた報告書「クライメート・インパクト・アセスメント」の最新版と共に、GHGの排出マッピングと分析方法を開発したことを発表した。NATOだけでなく、各国政府が独自の排出量の測定法を産み出している。 報告・削減義務がない中での、こうした動きは一定の評価を得ている。しかしまず、測定法に一貫性があり、透明性が高く、確固とした、信頼できるデータ収集法でなくてはならないのは言うまでもない。正確な排出量が把握できなければ、目標を掲げようがないからだ。
5,100万トンという軍部のGHG排出量で世界第2位にランクする米国
2022年の各国国防軍から排出されるGHGの量が全世界の5.5%に上ると試算したのは、SGRのパーキンソン博士らだ。CEOBSのリンゼイ・コットレル氏が、米誌『アトランティック』に語ったところによれば、この割合はアフリカ大陸全体からの排出量を上回ることを意味するのだそう。 米国ブラウン大学のワトソン・インスティチュート・フォー・インターナショナル・アンドパブリックアフェアズが行った「コスツ・オブ・ウォー」プロジェクトによれば、現在、軍部のGHG排出で世界第2位なのが、米国だ。米国国防総省(DoD)は2021年会計年度において、排出量を二酸化炭素換算で5,100万トンと報告している。もし、米軍が国だと仮定した場合、世界で47番目に多い量であり、スウェーデンからの排出量にほぼ匹敵する。 「コスツ・オブ・ウォー」プロジェクトの共同責任者、ネタ・クロフォード氏によれば、1970年代から米軍のGHG排出量は激減しているそうだ。冷戦終結に伴い、海外基地などを閉鎖したことに起因するという。例えば、2004年の排出量は8,500万トンで、2017年の排出量は5,900万トンだった。 クロフォード氏は、オックスフォード大学のモンタギュー・バートン・プロフェッサーシップの国際関係学の教授であり、『The Pentagon, Climate Change, and War: Charting the Rise and Fall of US Military Emissions』などの著作もある、政治学の専門家だ。