宇宙で太陽光発電して電力を地球へ。そんなことできるの?
部品レベルでのブレイクスルーが必要
宇宙拠点のソーラーパワーステーションというコンセプトは古くからあり、SF作家アイザック・アシモフによる1941年の短編『Reason』(短編集『われはロボット』に収録)にも登場しています。専門家は、このアイデアの実現可能性について何十年もディスカッションしつつも、SFのお話の域を出ることは今までありませんでした。それでも、宇宙拠点ソーラーパワーステーションという魅力的なアイデアを諦め切れるはずはなく…。 初期コンセプトでは、巨大かつ重たい構造物が必要なうえ、宇宙空間でのパーツ製造が必須と思われていました。もちろん、打ち上げキャパシティを考えても、それは今も昔も不可能な話。また、宇宙空間でエネルギーを収集できたとしても、巨大構造物を作り出すコストには見合わない=赤字コンセプトだと思われていたと、プロジェクト主要メンバーでカリフォルニア工科大学の材料工学者Harry Atwater氏は解説します。 実は、宇宙でのソーラーパネルなら、国際宇宙ステーションですでに使用されてます。が、プロジェクトチームの構想は、エネルギーを地球に送るところまで含まれています。これはつまり、コンパクトかつ軽量で、コスパもよく、打ち上げ&宇宙での展開にも対応できる太陽エネルギー送電システムを開発しなければいけないということ。 よりグローバルな使用を視野にいれた進化版宇宙拠点ソーラーパワーステーションを作るには、軽量素材を用いたワイヤレス送電機の宇宙での使用実証は、絶対的に必要なステップなのです。 Atwater氏いわく、プロジェクトチームは、超軽量・低コスト・フレキシブルなパーツを作ることで、技術を部品レベルからブレイクスルーし、大規模展開かつ経済的な宇宙拠点ソーラーパワーステーションのビジョンを理解していきたい方針だといいます。
挑戦や失敗がなければ、学びもない
DOLCE・ALBA・MAPLEによるブレイクスルーは、宇宙拠点ソーラーパネルステーションの大きな飛躍となりました。実験では、折りたたみパネルの展開における不備の対応含め、多くの課題・困難を乗り越えることができました。 「宇宙を飛ぶ機体と交信し、データをダウンロードできるまでの道のりは、とても簡単とはいえませんでした。何かを動かすのに数カ月かかったこともありましたし、最後の最後までさまざまな問題が発生しました。とはいえ、ミッションの主な部分は成功です。どう対応すればいいかがわかったんですからね。挑戦も問題もちょっとした失敗もなければ、多くを学ぶこともありません」と語るHajimiri氏。 太陽電池技術の前進と宇宙空間でのワイヤレス送電機デモの成功は、コンセプト実現の根幹となります。地球に送電できたエネルギー量はわずかではあったものの、Atwater氏いわく「ほら、できた!」というには十分だとのこと。 技術的革新だけでなく、人道的かつ環境面からも検討すべきことは多くあります。宇宙拠点ソーラーパワーステーションが実現すれば、無制限なクリーンエネルギーを得ることができ、それは化石燃料の使用大幅削減を意味するからです。 チームが提案するシステムは安全面も考慮。自然な物理学における制限範囲に収まるようデザインされており、送信するエネルギーは一定量を超えないようにできています。したがって、システムが設備をオーバーヒートしたり、電子機器に干渉したり、ひいては生物に有害となることはありません。 また、送電に採用されている微力マイクロ波は主に熱を生成するので、太陽放射よりも安全とのこと。懸念すべき問題(人間、動物、電気機器への影響)は、高エネルギーの放射線によって起こり得ますが、低エネルギーのマイクロ波には有害となる影響はないそうです。また、システムにはそもそもAIを駆使したインテリジェンス制御が搭載されており、例えば送電路に障害物が発生するなど、イレギュラーな状況にも対応できる作りになっているとのこと。