託されたキャプテンマークと共に掴んだJ1初昇格…岡山MF田部井涼を支えた主将の言葉「タケさんは理想」
[12.7 J1昇格プレーオフ決勝 岡山 2-0 仙台 Cスタ] 左腕には栄えあるキャプテンマーク。大卒3年目にしてファジアーノ岡山の大役を担うMF田部井涼が、堂々のリーダーシップとクレバーなプレーでクラブを初のJ1昇格に導いた。昨季は横浜FCからの期限付き移籍でシーズンを過ごし、完全移籍となった今季は副キャプテンを担当。負傷明けのシーズン終盤にはボランチの一角で欠かせぬ戦力になり、ピッチ内外で戦える姿を印象づけるシーズンとなった。 【動画】アウェー中国戦の裏で起きていた珍事…日本代表FWがSNS上の声に反応「わざと」 試合後、田部井はプレーオフ制覇での昇格決定に「J1に上がれてすごく嬉しい」と素直な喜びを表現しつつ、この1年間の価値を次のように表現した。 「その過程の中でこのチームにいて良かったなというシーンがたくさんあった。最後にこうしたプレゼントが来ましたけど、そういう選手たちとプロのキャリアでやれたということ自体が自分の中ですごく大きなものになったし、これからも大きなものになると思う。その経験をさせてくれたチームにすごく感謝しています」(田部井) とりわけ大きかったのは加入1年目でチームキャプテンを務めたベテランのMF竹内涼(33)の存在だった。前橋育英高時代にキャプテンとして全国優勝を果たし、法政大でもキャプテンを務めた田部井だったが、「プロのリーダーと学生のリーダーは全然違うなと思っていた」という中、その重責との向き合い方を見通していたのが竹内だったのだという。 「プロサッカーチームを引っ張っていく存在として、タケさんは理想だなと自分の中で思っている。素晴らしい人に出会えたなと。声かけ一つもそうだし、プロは結果を出さないといけない仕事なので、チームのことを全部考えていればいいかというとそうではない。プロ3年目でそういう役割をさせてもらって、そこのバランスが狂いそうな瞬間がキャンプの中であったけど、タケさんはそこを察してくれて、シーズン初めの時点で『自分のことに集中すれば良い影響が生まれるから』という話をしてくれた。その言葉が今年1年、自分の中で大きかったなと思っています」(田部井) 高校・大学の育成年代においては、サッカーの実力でもパーソナリティーでも抜きん出た存在がキャプテンを任される例が多いのに対し、プロはさらに厳しい実力社会。副主将としてのリーダーシップだけでなく、選手としてピッチ上で存在感を示さなければならない立場にある田部井にとって、本来であればポジションを争う関係でもある竹内の助言は大きく響いていた。 その結果、シーズン中盤こそ負傷による戦線離脱も強いられたが、復帰後はスムーズにチームにフィット。終盤戦では試合を経るごとにパフォーマンスを上げ、ピッチ上でもJ1昇格を争うチームの欠かせぬ戦力となった。その飛躍の背景には木山隆之監督のもと、岡山がチームで作り上げた日々のトレーニング水準の高さがあったという。 「強い相手もいたし、ボールを動かすのが上手いチームもいたけど、このファジアーノでやっている練習の強度、練習のレベル自体がすごく高いので、練習でやれていることを出すことに集中できたのがすごく良い成功体験だった。そっちのほうが自信になるし、自分の中でこうなったらこうなるというのが頭の中で覚えられる。試合でやりたいことをやって成功します、でもいいと思うけど、自分はそういうのが好きじゃないタイプ。身体が勝手に動くじゃないけど、それくらいに練習の中でやれていれば自信を持ってプレーできるんだなというのをすごく感じられた1年だった。その中で上位争いができたのはすごく良かったなと思います」(田部井) そうして掴んだJ1昇格。田部井はプロ1年目に横浜FCでJ2リーグ戦16試合に出場し、J1自動昇格を経験したが、翌年から岡山で過ごしてきたため、自身にとっても初のJ1挑戦となる。 「個人的なことで言えば、(前橋育英)高校の同級生の角田涼太朗(スウォンジー)はJ1でポンポンと活躍して上に行ったし、大学で一緒にやった選手にもJ1で活躍している選手がすごく多くて、すごい悔しさを抱えながら3年間やってきました。でも、こういうふうに一つ一つ着実にというのが僕の上がり方なのかなと。もちろん大卒なので時間もないし、どんどん飛ばして上に行くのが一番だと思うけど、着々とこのクラブと共に、そういう感覚で上に行くのが自分らしいのかなと。自分の中ではそういう納得感を持って過ごしていたし、結果に出てすごく良かったなと思います」(田部井) 大卒4年目で初のJ1挑戦という現状には葛藤もある。ただ、一つひとつのプレーに個人の力量が表れやすいFWやDFとは異なり、ボランチの飛躍はチームの結果と不可分。3年目でゲームキャプテンという大役を託され、クラブやチームメートの信頼を高めながらJ1昇格に導いたという実績は簡単に得られるものではない。 だからこそ、チーム全体がより高いレベルに身を置く来季はいっそう勝負の1年になる。「ここからは日本のトップリーグでやれるチャンスがあるので刺激的だなと。レベルも上がると思うので、もっともっと見えるものを増やしていきたいなと思います」。選手としてもチームリーダーとしても一回り大きくなった1年間の経験を引っさげ、さらなる大舞台で成長速度を上げていく構えだ。