知る人ぞ知る「商売の教科書」!ロングセラー『デパートの誕生』に書かれた「商売の普遍的極意」
講談社現代新書創刊60周年を記念して、これまで現代新書をお書きいただいた著者の方々に、ご自身にとって特別な現代新書を挙げていただきながら、自著についてお話を伺うインタビューシリーズ「私と現代新書」。 【もっと読む】もっとも多忙な仏文学者、鹿島茂が選ぶ現代新書3冊はこれだ! 第1回目にお話を伺うのは、仏文学者の鹿島茂さんです。これまで刊行された現代新書は、『デパートを発明した夫婦』(1991年)と『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』(2003年)。このうち『デパートを発明した夫婦』は、書き下ろしの「パリのデパート小事典」を付して、今年、装い新たに講談社学術文庫『デパートの誕生』として刊行されました。 鹿島さんにとって特別な現代新書3冊を挙げていただいた前回(「「もっとも多忙な仏文学者」鹿島茂が選ぶ現代新書はこの3冊だ!」)に続き、今回は、自著『デパートの誕生』についてお話を伺います。(#2/全3回)
チェコ・スロヴァキアのデパートがきっかけ
―― 1991年に現代新書として刊行されたロングセラー『デパートを発明した夫婦』が、昨秋、講談社学術文庫から『デパートの誕生』として刊行されました。パリのさまざまなデパートの来歴をまとめた「デパート小事典」が書き下ろしで新たに収録されています。 本書は、「昔からデパートが大好きなのである」(本書「まえがき」)という鹿島さんが、19世紀半ばのパリにあったマガザン・ド・ヌヴォテ(流行品店)〈ボン・マルシェ〉を舞台に、経営者アリスティッド・ブシコー(1810-1877)とその妻が “欲望の装置”たるデパート商法を生み出していく過程を描いた作品です。 〈ボン・マルシェ〉を取材して書いたとされるゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』や、その草稿を集めた『調査ノート』、その他バルザックの作品や当時のパリの風俗を描いたさまざまな文献を引用しながら、当時のデパートの様子が活き活きと描かれています。「これほどに書きたいという気持が強かったことはない」(1991年刊行時あとがき)と書かれているとおり、鹿島さんの筆の勢いが伝わってきます。 豊富な挿絵も本書の魅力の一つです。〈ボン・マルシェ〉を描いた当時の絵が多数掲載されていますが、すべて鹿島さんのコレクションなのですね。この中の2枚のために、週刊絵入り新聞のバックナンバーを30年分買い込んだり、何度もパリへ渡ったり、「印税をかるかに上回る『設備投資』」をなさった意味でも、鹿島さんの思い入れを感じる作品です。 鹿島茂さん(以下、敬称略): ベストセラーになって借金をいっきに返済できるかなと思っていたのですが、全然そうはいきませんでした。そのかわり、ロングセラーになり20刷くらい版を重ねましたね。 ―― 本書のまえがきでは、デパートこそ資本主義の究極の発現だ、と鹿島さんが考えたきっかけとして、1985年、当時共産主義体制だったチェコ・スロヴァキアでデパートに入り、商品がほとんどない店内に衝撃を受けた時のことが書かれています。どういう経緯でチェコ・スロヴァキアに行かれたのですか? 鹿島:1984年から85年にかけて海外研修中で、夏休みに旅行でチェコ・スロヴァキアやオーストリア、ドイツを回っていました。そのときに、今のスロバキアの首都であるブラチスラヴァを歩いていたらデパートがあったので、入ってみたら、そのような状況だったわけです。 僕は、訪れた都市では必ずデパートに行ってみるんですよ。ディジョンとか、ナントとか、そんなに大きくない都市でもね。