知る人ぞ知る「商売の教科書」!ロングセラー『デパートの誕生』に書かれた「商売の普遍的極意」
日本とフランスのデパートの違いは「地下1階」
―― 日本のデパートは、どうご覧になっていますか? 鹿島:日本のデパートとフランスのデパートの一番の違いは、地下1階です。 昔のフランスのデパートの地下1階は、リスト・ド・マリアージュ(Liste de mariage)といって、結婚のお祝い品を売るフロアになっているのが定番でした。フランスでは、結婚する二人が、結婚に際して自分たちが必要な商品の一覧を親戚や知り合いに送るシステムがあって、その一覧のことをリスト・ド・マリアージュといいます。結婚のお祝いを贈る人たちは、デパートに出かけ、リスト・ド・マリアージュを見ながら、その中から品物を選んで贈るわけです。今は違いますが、かつてはそれが普通でした。 ―― いつ頃までそうだったんですか? 鹿島:30年くらい前まではそうだったと思いますよ。 一方、日本のデパートの地下1階はだいたい惣菜とか食品を売っています。 ―― 「デパ地下」と言えば食品フロアを指すくらい、日本のデパートの地下1階には食品売り場が定着していますね。 鹿島:この現象はフランスにはありません。日本独特のものです。
なぜ日本の「デパ地下」は食品売り場が定番に?
なぜ日本のデパート地下1階は食品フロアが定番になったんだろう、と考えてみたところ、あれは、営団地下鉄がデパートの地下と連結したのが始まりなんです。 日本橋の三越、高島屋、当時は白木屋もありましたね。それから銀座の三越、松屋、上野の松坂屋、さらに言うなら浅草の松屋。すこしあと、渋谷駅に五島慶太がターミナルデパート東横百貨店を作ります。地下鉄銀座線は、浅草、上野、日本橋、銀座、渋谷のデパートを結んでいるのです。 そうやってデパートを結ぶ地下鉄が生まれると、食品フロアが発達した。なぜなら、昭和の日本の家庭では、主婦がお惣菜を買うようになっていたからです。しかし、これはヨーロッパではありえない。お惣菜は女中さんが買うもの、という階級社会ですから。デパートは基本的に中産階級のためのものですが、それでも階級社会がかなり表れていますね。