有名コンサルでの業務経験が裏目に──上場AIスタートアップCEOに聞く、創業の辛酸
イノベーションのジレンマ 短期的成果と長期的ビジョンの葛藤
こうした失敗を経て企業向けのAIコンサルティングともいえるオーダーメイドAI事業が軌道に乗り始める。しかし皮肉なことに、逆に椎橋CEOはある種の危機感を覚えていた。 「AIのPOCがやりたい」という企業の課題に応えるプロジェクトが増え、売り上げは安定的に伸びていく。しかし、既存業務の部分的な効率化にとどまるケースが多くを占めるようになった。「これは逆にリスキーなんです。真綿で首を絞められるような感覚がありました」と椎橋CEO。目の前の成果に目を奪われ、イノベーションから遠ざかっていく思いだったという。 実は創業期、極度に苦しい時期を支えていたのは、短期的な展望ではなく、むしろ長期的な視点だった。「現実逃避と言えばそれまでですが、20年、30年先の未来を考えることが、唯一の心の支えでした」。日本のAI企業は米国、中国に2周も3周も後れを取っている。それでも、より長い時間軸で見れば、可能性は決して閉ざされていない。 「こういう考え方ができたのも、皮肉にも足元の業績が厳しかったからかもしれません。うまくいっていれば、わざわざ遠い未来に思いをはせる必要もなかった」。短期と長期、現実と理想。相反するものの間でもがき続けることこそが、スタートアップの宿命なのかもしれない。
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