【米大統領選】共和党バンスvs民主党ウォルズは、あまりに正反対な副大統領候補
<米大統領選の副大統領候補はともに中西部出身の白人男性だが、年齢や性格、経歴はかなり対照的だ。副大統領候補には「攻撃犬」と「バランサー」」という2つの役割があるが、共和党バンス、民主党ウォルズのどちらが「攻撃犬」で、どちらが「バランサー」なのか>
米民主・共和両党の副大統領候補同士の対決は、民主党のティム・ウォルズ・ミネソタ州知事が共和党のJ・D・バンス上院議員を一歩リードした格好だ。これまでのところ、候補者たち自身よりもそれぞれ「猫好き女」発言やドーナツショップでのやりとり、雨どいの手入れのほうが話題を集めているが、バンスが大半の有権者に与えた印象は、社交下手で不気味な全体主義者・性差別主義者というもの。一方、ウォルズは陽気で温かみのある常識人と受け止められた。 「感傷的なクズ」と酷評されて... 歴史的に見て、米大統領選における副大統領候補の主な役割は2つある。1つは「攻撃犬」。副大統領候補が相手陣営への攻撃役に徹することで、大統領候補は政策に集中し、肯定的なイメージを保ち、政治の汚い部分から距離を置くことができる。もう1つは「バランサー」の役割だ。大統領候補と異なる地域(できれば選挙上重要な地域)出身で、異なるイデオロギーの持ち主であることが望ましい。 バンスは毒のある言動で前者の役割を果たす。民主党の女性たちは「惨めな人生を送る子供のいない猫好き女性の集団」であり、ハリスは「筋金入りの過激派」「根本的に偽物の人物だ」などなど。 地域的にはトランプ前大統領への貢献度は大きくない。バンスはオハイオ州選出の上院議員で、同州はもともと共和党が強い地域。トランプもバンスも権威主義的で無節操な保守派ポピュリストなので、イデオロギー面でバランサーの役割も果たさない。 これに対してウォルズは副大統領候補の伝統的条件を満たしているように見える。さらに、明るく「喜びにあふれた」選挙運動を展開する一方で、対立候補を笑顔で切りまくる。「私たちは州内の全ての子供が毎日朝食と昼食を食べられるようにした。他の(共和党知事の)州が学校から本を追放している間に、飢餓を追放したのだ」と。 バンスが選挙戦に加えたのは、まだ40歳という若さだ。現職のバイデン大統領が撤退した今、来年6月に79歳になるトランプは史上最高齢の米大統領候補となる。 トランプがバンスを起用したのは、アメリカの民族的多様性とエリート支配に反対するポピュリスト的・権威主義的運動を強化するためだろう。バンスは怒れる白人男性の代弁者になろうとしたが、他のほとんどのアメリカ人を激怒させる結果を招いた。現状では史上最も不人気な副大統領候補だ。 そして「奇妙な(weird)」問題。バンスは選挙運動中、ドーナツショップで黒人女性の店員と気まずい雰囲気で話しているところを撮影された。「普通の男」に見せようとしているが、明らかに落ち着きがなく、不誠実に見えた。ウォルズはトランプとバンスを「奇妙な」連中と呼んだ最初の人物だ。アメリカ英語では、他人の道徳や行動を公然と非難する代わりに用いる婉曲表現で、一般的な価値観や慣行から懸け離れた気味悪い人間という含意がある。 ウォルズは「家の雨どいで人を判断する。よく手入れされた雨どいを見ると、人となりがよく分かる」と語って話題になった。人当たりのいい60歳の白人男性で、中西部の「白人地域」出身(つまり白人有権者と文化的親和性が高い)。長年高校の教師を務め、フットボールのコーチでもあった。女性・黒人・インド系・西海岸出身のハリス副大統領にとって、明らかに自分の足りない部分を補えるバランサーだ。 有権者は副大統領候補を見て投票するわけではないが、彼らを選んだ大統領候補の判断は有権者に影響を与える。ウォルズの常識と穏健な進歩主義がハリスにもたらすものは、バンスの攻撃的で極端な保守主義がトランプにもたらすものより大きい。
グレン・カール(元CIA工作員・本誌コラムニスト)