ブリヂストンの“柔らかいロボット”「umaru(うまる)」で入居者同士のつながりを創出する実証実験「コムレジ赤羽」で開催
ブリヂストンの社内ベンチャーである「ソフトロボティクス ベンチャーズ」と長谷工コーポレーションは、東京都北区赤羽の共創型レジデンス「コムレジ赤羽」で“柔らかいロボット”「umaru(うまる)」が持つ価値を検証する実証実験を11月22日~12月13日の期間で実施している。 【画像】“柔らかいロボット”umaru 12月9日にコムレジ赤羽で行なわれた報道関係者向け説明会では、コムレジ赤羽内の共用スペース「ツドイラウンジ」に設置されたumaruが紹介され、両社の担当者から実証実験の狙いなどについての解説が行なわれた。 umaruはブリヂストンが開発した[ゴム人工筋肉]を使う“柔らかいロボット”。「日常に寄り添い、働く人々の心を支える」というテーマで開発され、中央にある凹みに身を委ねると、体験者の全身をやさしく包みこんで深く沈んでいく動きとゆっくり背中を押し上げていく動きを独特のリズムで繰り返すことにより、短時間で体験者に心の脱力やリラックス感を提供する「呼吸するハンモック」となっている。 説明会ではumaruが持つ効果を実際に体感する時間も用意され、筆者も体験することができた。 同じくブリヂストン製のゴム人工筋肉を使う「Morph(モーフ)」を10日ほど前に体験したばかりだが、不規則に大小さまざまな動きを見せるMorphと比較すると、umaruは頭側から波打つようにゆったりと体を上下させ、準備運動のような前半の小幅な上下動から、後半はまさしく体が「埋まる」ように大きく沈み込むよう変化する設定となっている。 また、BGMが用意されているMorphとは異なり、umaruはゴム人工筋肉を作動させるエアの出入りする音も聞こえてくるが、ゆったりとしたリズムで吸排気音を響かせることで体験者の呼吸リズムもペースが落ち、深呼吸のようなリラックス効果が発揮されることも狙っているという。 ブリヂストンのゴム人工筋肉は、用途に合わせて「伸縮するタイプ」と「曲がるタイプ」の2タイプを設定。1本で100kg以上の荷重を支えられる設計となっており、伸縮するタイプ14本で構成されるumaruは、ハンモック部分に体が収まる人なら事実上体重制限はない。エアを送り込んで加圧することで短く縮み、弁を閉じて加圧状態を維持できるので、電力を消費することなく縮んだ状態を保持できるという。 長谷工コーポレーションではumaruを設置して居住者に体験してもらうことで、「umaruによるツドイラウンジの利用シーン多様化」「umaruをきっかけとして生まれる他の居住者との会話・交流・共創促進」「マンション内共用スペースの活性化による“暮らし”へのポジティブな変化」という3つの価値を提供できるかについて検証している。 11月22日~12月13日の実証実験期間中には、コムレジ赤羽の居住者にツドイラウンジでumaruを利用してもらい、利用後のアンケートやスタッフによるヒアリングを実施。期間終了後には入居者イベントを開催してumaruが持つ効果を検証していく。 ■ umaruの設置で入居者同士のつながり創出にも寄与する 説明会では最初に、コムレジ赤羽の開発・運営を行なっている長谷工コーポレーション 都市開発部門 不動産投資事業部 事業開発部 部長 小島智枝子氏がプレゼンテーションを実施。 総戸数340戸を持つ賃貸マンションであるコムレジ赤羽は、「社会人棟」「学生棟」「賃貸棟」の3棟で構成され、「集まる楽しさを、自分たちの成長へ。」をコンセプトとして掲げる共創型レジデンス。人と人が交わることでシナジーを生む出すことを目指し、賃貸マンションながら社会人棟と学生棟には部屋ごとのキッチンや洗濯機置き場を設定せず、食事は共用ダイニング&キッチンやカフェテリア、洗濯は共用ランドリーを使ってもらうことで、住人同士が触れ合う機会を創出する“規模の大きなシェアハウス”のようなマンションになっている。 umaruによる実証実験を行なうことになったきっかけは、長谷工コーポレーションも入居する虎ノ門ヒルズの「ARCH」でソフトロボティクス ベンチャーズが“無目的室”「Morph inn(モーフ・イン)」を8月に期間限定オープンさせたことでumaruについて知り、自分たちも重視しているウェルビーイングでシナジーを創出できるのではないかと考えたほか、入居者同士のつながりの創出に寄与することも期待されるとの観点から実証実験を共同実施することになったという。 今後の展望としては、新規開発するマンションの共用部分にumaruを設置することでマンションの価値を高め、部屋に住む以外の部分での付加価値としてウェルビーイングを推進。高騰を続けている賃料やマンション価格にバリューを与える取り組みをブリヂストンと協力して進めていきたいと語った。 ■ 触れた人の心にどのような影響を与えるかを考え、柔らかいロボットを開発 ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ CEO 音山哲一氏は、ブリヂストンが得意とするゴムを使った柔らかいロボットは、従来からある硬いロボットと比較して人と触れ合いやすく、柔らかさによって触れた人の心にどのような影響を与えるかを考えてゴム人工筋肉を使ったロボットを開発するきっかけになっていると説明。これまで展示会などの会場で展示するケースはあったが、今回の実証実験で共創型レジデンスという人が実際に生活している場に設置してumaruが持つ魅力を提供できたことは、「自分たちにとっても新たなる一歩になった」と述べた。 umaruはゴム人工筋肉による上下動で体験者の心と体をほぐしていくことを目指して開発された柔らかいロボットだが、このコムレジ赤羽での実証実験を通じ、心をほぐすことで体験した人の心が解放され、コムレジ赤羽が目指している入居者同士の緩やかな交流による共創をさらに加速させることにもつながっていると音山氏は説明。 自分たちが得意とするタイヤがモビリティとは切り離すことができず、人や物が動くことが街づくりになり、人々の生活につながっていくように、ウェルビーイングと住宅は切り離せない存在であり、そんな住宅に自分たちのコア技術を活用するumaruの魅力を発信することができたことに手応えを感じているという。 umaru自体は次のスケジュールなどもあって12月13日で実証実験は終わるが、「これからも長谷工コーポレーションとウェルビーイングと住宅、共創をキーとした活動を続けていきたい」と、今後の展望について語った。 ■ 約75%の体験者が「今後もコムレジにumaruがあり続けることを希望する」と評価 ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ プロダクトデザイナー 中山大暉氏は、11月22日の実証実験開始からこれまでに寄せられた利用者の声をまとめた検証内容を紹介。コムレジ赤羽の社会人棟、賃貸棟の居住者を対象に行なわれたumaruの実証実験では、アンケートに回答した体験者の約95%が「リフレッシュ効果がある」と感じ、同約80%が「ストレス解消効果がある」と回答した。 また、ほかにはないコムレジ赤羽ならではの設問として「リフレッシュしたことで誰かと話したくなるような感覚はありましたか?」という質問も用意されていたが、同約55%の体験者が「感覚があった」と答えており、これによってumaruに「外向きの社交性を促進する効果がある」と結論付けている。さらにアンケートでは、同約75%の体験者が「今後もコムレジにumaruがあり続けることを希望する」と評価しており、大きな手応えを感じていると述べた。 アンケート結果としての定量的なデータのほか、期間中に何度もこの場に足を運んで利用状況を見ていた中山氏は、体験した人の声でも肯定的なリアクションが多く、平日の19時~21時という仕事終わりの時間帯に多くの人がumaruの周辺に集まって、居住者同士の会話が弾む光景を目にしたとコメント。「umaruで心が和らぎ、仕事モードからくつろぎモードに変わるきっかけがこの場所にあるからこそ、人々がつながっていく。そんな価値創出の可能性を今回の実証実験で確認することができたとわれわれは感じています」と総括した。
Car Watch,佐久間 秀