キャストが確かに端島で生きているのを感じた…『海に眠るダイヤモンド』もっとも忘れられない神シーンは? 考察レビュー
22日の放送をもって完結した日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)。1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京を対照的に描いた本作は、多くの反響を呼び、「日曜劇場」の歴史にまた新たな名作が刻まれた。本作の魅力を振り返りたい。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】杉咲花のあまりにリアルな芝居に涙…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『海に眠るダイヤモンド』劇中カット一覧
我々は、あの端島の風景を鮮明に思い出す――。
私は端島に暮らした当時の人々を知らない。石炭を掘り出すために絶え間なく稼働する炭鉱の風景も、仕事終わりに食堂に集う鉱員たちの姿も、実際にその目で見たことはない。 それでもドラマ『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)で映しだされた端島の生活は、70年前の出来事とは思えないほど身近に感じられる。当時から綴られた日記を擦り切れるほど読みこんだあとのように、頭のなかで端島の風景を鮮明に思い出すことができる。 それほど脚本家・野木亜紀子、監督・塚原あゆ子、プロデューサー・新井順子らによって産み落とされた物語は、現代の視聴者を当時の端島へと誘ってくれた。 どこか重苦しい空気が漂う2018年の東京と、70年前の高度経済成長期まっただなかにある長崎県・端島。異なる時代、異なる場所を舞台に、悠久の時を経て受け継がれる愛と友情、家族の絆が描かれた『海に眠るダイヤモンド』は、間違いなく「日曜劇場」の歴史に刻まれる作品となった。
端島の地で確かに”生きていた”キャスト陣
『海に眠るダイヤモンド』を最後まで見届けた人は、今や世界遺産に認定されて無人島となったあの島を、もう「軍艦島」と呼ぶことはないかもしれない。なぜならドラマの舞台となった「端島」は、あの地で確かに生活を営んでいた人々の故郷だと知ってしまったからだ。 汗と煤にまみれて地下深くへと潜る炭鉱員。鉄筋コンクリートの集合住宅で暮らす彼らの家族。そして、隠すことのできない戦争の爪痕が刻まれた島民たち。画面の奥にいる人々は、紛れもなく当時の端島を生きていた。島の外勤として働く鉄平(神木隆之介)も、食堂の看板娘として両親を手伝う朝子(杉咲花)も、あまりにも自然に70年前の端島での日常に溶けこんでいた。 まさに激動の時代を迎える1955年の端島から始まる歴史のなかで、彼らの青春群像劇やホームドラマがていねいに紡がれ、いくつもの名場面が生み出されていく。 特に特筆すべきだったのは、幼馴染たちが想いを確かめ合ったふたつのシーンだ。第6話で鷹羽鉱業の炭鉱長の息子である賢将(清水尋也)が、自身の境遇を理由に結婚はしないと宣言していた百合子(土屋太鳳)へと想いを伝える。 百合子の決意を知りながらも「これからもつきあってよ。俺の人生。俺も百合子の人生につきあうから」と告げる賢将。涙を堪えながらも「わたしの人生…手強いわよ」と強気に答える百合子の返事も含めて、これほどふたりのこれまでとこれからの関係性をくっきりと浮かび上がらせる会話もないだろう。 そして、賢将と百合子のやりとりを遠くから眺め、手を繋いで万歳しながら喜びを爆発させていた鉄平と朝子をそれぞれ演じた神木隆之介と杉咲花もまた、第3話のラストで観た人の記憶と心に強く刻まれるすばらしい演技を披露していた。 朝子の初恋の人が自身であることに気づいた鉄平が、後ろを振り返ったときに見つめ合う一幕に見せたふたりの表情。言葉にならずとも通じあう想いを、こんなにも自然に表現できるのかと、ただただ一連の演技に見入ってしまった。 同世代の幼馴染として端島に生まれ育った4人が、噛み合わない恋模様と複雑な想いが入り混じった友情を乗り越えて、同じ第6話で未来をともにする約束をしたことも感慨深い。同話はキャスト陣の自然体な演技も含めて、誰もが忘れられないエピソードとなった。