「エゴサはしない」侍ジャパン・井端弘和監督 指揮官は信念貫く
野球日本代表「侍ジャパン」は2024年秋の国際大会「プレミア12」で準優勝に終わり、連覇はならなかった。しかし、若手が貴重な経験を積むなど収穫のある舞台でもあった。井端弘和監督が旧年を振り返り、26年春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、土台を作るために重要となる25年を語った。【聞き手・岸本悠】 【写真で見る】プレミア12決勝 日本-台湾 プレミア12で侍ジャパンは、決勝で台湾に0―4で敗れた。悔しい結果だったが、井端監督にとっては学びと実りを得た大会だった。 まず攻撃面だ。「打線が活発でいいチームだった。(若手中心で)28年のオリンピック(野球が復活するロサンゼルス大会)にもつながってくれればいい」と手応えを感じている。 広島の小園海斗内野手、阪神の森下翔太外野手、楽天の辰己涼介外野手ら国際舞台はほぼ初めてというメンバーが活躍した。「みんな何かをつかんだんじゃないかと思います」と目を細める。 起用法にも心を砕いた。例えば打率3割8分7厘、2本塁打、8打点の好成績を残し、大会ベストナインにも選ばれた小園選手だ。会話をする中で「ランナーがいたほうが好き」ということを知った。そこで2番に置いたところ、大活躍した。特に評価したのは「知らない投手でもどんどん振れる」という積極性だ。初対戦の投手が多くなる国際大会では、これが重要なポイントになるからだ。 小園選手に続く3番に据えた辰己選手の評価も高い。打力、走力に加え中堅の守備力のバランスが良い好選手。「あれだけ逆方向に打てるとは思っていなかった。楽しみな選手」といううれしい誤算だった。奇抜な言動が目立つ辰己選手だが、ここで生きたのが、井端監督自身が12歳以下や15歳以下の日本代表を指揮した経験だ。 「当時に比べれば、何も思わない。そこは幅広く見られている。(辰己選手は)真面目ですよ。頼もしかったですよね」 投手起用については悩みが深かった。「過去の五輪予選などと比べても、一番過酷な大会だった」と話すように、連戦で日程的には厳しかった。しかし、ペナントレース、ポストシーズン後ということで選手の疲労は最大限考慮した。「投手は2連投までしか考えていなかった」という自らに課した制約の中で、何とかやりくりしてみせた。 「タイブレークも(想定に)入れたら、先発以外で(投手)4人しかいないと思うと、ゾッとしていました。二回で先発に打球が直撃したらどうしようとか考えると、怖かったですね」 日本を決勝で破った台湾は前日の日本戦も含め大会中に3敗。対する日本は無傷の8連勝だった。さすがに「負けた時には沈むこともあった」という井端監督にとっても得がたい教訓を得た。それは、いかに選手を鼓舞するかという点だ。 「最初は、決勝は選手に『後は任せた。行ってこい』みたいな感じかと思っていた。選手の時はそう思っていたけど、違った」 実際は相手に先行を許した上、打線が反攻できずに零封負けだった。「もうひと頑張りさせることが必要だった。最後は勝ち切らないといけないと改めて感じた」と反省する。 敗戦後には、インターネット上で井端監督の采配に対し批判的な声もあったが、「あまり気にしていません」。指揮官はネット上で自らの情報や評価を検索するエゴサーチ(エゴサ)も「しない」という。「やっぱり、(状況を)知らないこともあると思うので、反論してもしょうがない」と達観している。 それが貫けるのも信念と綿密な計画があったからだ。そもそも「今だけではない。10年先も日本代表は強くあり続けなくてはならない」という考えの井端監督は、プレミア12の選考に当たっても若手中心に編成していた。その上で、25年シーズンは「若手と前回のWBC(23年)に出たような実績のある選手で勝負してもらうシナリオを持っていた」。その意味で、小園や辰己、森下の各選手らの実力を見定められたのは大きな財産になっただろう。ほかに、コンディションの問題などで選べなかった選手たちも数多くいる。 WBCでは当然、米大リーグ勢も重要な戦力になるはずだ。特に期待が集まるのはやはり、25年シーズン中に、投打の二刀流の復活も期待される大谷翔平選手だろう。前回大会では二刀流で大活躍したが、「本人の状態次第。まずは投げてから」と見守る考えだ。 25年は国際大会が行われないため、実戦は強化試合だけになる可能性が高い。それだけに、レギュラーシーズンでいかに選手の力を見極めるかが重要になる。特に注目するのが交流戦でのプレーだ。 「知らない投手にどう対応するか。初球からいけるのか」 小園選手と同様に積極性を持つ選手を見いだしたい考えだ。①プレミア12のメンバー②プレミア12でコンディションなどから選に漏れた実力者③大リーグ勢――。WBC連覇に向け、この3グループを組み合わせた最適解を見つけるための、井端監督の1年が始まった。 ◇井端弘和(いばた・ひろかず) 野球日本代表監督。現役時代は中日の名遊撃手として活躍。東京オリンピックでは日本代表コーチとして金メダル獲得に貢献。監督には2023年10月に就任した。