被災地に響く「戦場のメリークリスマス」3.11以降、坂本龍一に何が起きたのか
今でもテクノロジー先端にいる坂本 「iPhoneであそこまで音が録れるなんて」
客観的な立場で見て、どの作品の話をする坂本さんが一番熱く映ったのだろうか? シブル:いい質問ですね。やはり『async』でしょうか。どういう音楽になるかわからない時にお話をうかがっていたので、あとになってわかることも多かったのですが。他のことも長時間にわたり、丁寧にお答えいただきましたが、やはり今作っているものへの関心がが一番高いように思います。『レヴェナント: 蘇えりし者』もそうですね。 80年代のテクノは、舞台いっぱいのシンセサイザーが印象的だった。比べてこの映画で坂本龍一が音をサンプリングしているレコーダーは小さなiPhone。そこに時間の経過を感じた。 シブル:坂本さんはいま60代ですが、テクノロジーに関しては本当に詳しいんですよ。iPhoneであそこまで音が録れるなんて、私は知りませんでした。映像的には外に出て音を拾うというアクションは救われますね(笑)。ミニマムなのは画になりにくく、そういう意味でも80年代のテクノロジーは画になります。箪笥みたいなMOOGシンセサイザーとかね。
カメラも撮っている感がない小さいものを使ったのだろうか? シブル:いや、そうでもないです。ソニーのFS7とか。ピアノがあるものすごく小さい部屋で、週末ごとに、彼の作曲プロセスが進むと同時に人生を振り返ってもらいました。坂本さんはすごくオープンで、勝手にカメラを回せばという感じで、急にぽろぽろと弾き出すんです、準備してる間なんかに。いまから弾くから撮ったらなどとは決して言ってくれない(笑)。でもそれが「solari」という曲だったりして、そのまま皆で聴いてしまうこともありました。2012年に撮影をはじめ、2014年には癌の罹患を公表し、しばらくは撮影もままならなくなりました。息子さんの協力を得ながら、昨年の夏に再び撮影を開始したのですが、とても不思議な時間を過ごさせていただいた。そんな気がします。