ドラフトウラ話《オリックス3位指名》「山口はもう1人いるから…」“193cmの無名ピッチャー”は指名の瞬間思わず「マジで?」…記者が完全密着「僕は指名されるかわからない選手」
「僕は指名されるかどうかもわからない選手」
前日、山口にドラフト前夜の心境を尋ねると、こうリラックスしていたものだ。 「指名されるとわかっている人はドキドキすると思うんですけど、僕は指名されるかどうかもわからない選手なので。気楽と言えば気楽です。甲子園も出てないですし、未知数というか、獲ってもいいの? みたいな選手なんで」 ドラフト会議が始まる前、山口は報道陣や関係者にもこんなあいさつをしていた。 「順位的にはわからない部分が多くて、長くなるとは思いますが、気長に待ってくれれば助かります。よろしくお願いします」 指名があるとしたら早くても4位、通常なら5位か6位あたり。山口はそんな風にとらえていたようだ。
身長193cm「毎年7cm伸びた中学時代」
即戦力か将来性か――。ドラフト候補は、まずは大雑把にそのどちらかに分類される。近年は後者の中でもとりわけ大型選手の枠を「ロマン枠」と呼ぶ。 その意味でいくと、山口の体にはそのロマンや夢が詰まっていた。 真横にいる山口に身長172cmの私が話しかけようとすると、斜め上というより、完全に見上げる形になる。高いビルを見るのと同じ首の角度だ。 山口の身長は193cmもあった。そう、山口は普段、あの大谷翔平と同じ位置から世界を眺めているのだ。 小学校を卒業する時点ですでに170cmに達していた山口は、高校に入学するときには190cmに届いていた。つまり中学時代は毎年、7cm近く伸びたことになる。 「朝起きたとき、今までぶつからなかったところにぶつかったりすることがありました。でも、夜になるとぶつからないんです。重力で身長が縮んじゃうんでしょうね」
「じつは小・中学校時代はキャッチャーだった」
彼がロマンを抱かせるのは身長だけではない。 野球を始めたのは小学1年生のときだ。背が大きく、その頃から肩も強かったが、小・中学校時代のメインのポジションは捕手だった。彼の剛球を受けられる捕手がいなかったという事情もあったが、指導者の目が彼の長打力の方にいきがちだったということもある。 高校に入ったら投手一本で勝負してみたいという願望を抱いていたものの、入学直後、いきなり躓いた。中学時代に痛めた右肘がドクターチェックで緊急手術を要する状態であることがわかったのだ。出力が強過ぎるため、成長する前の軟骨が破損してしまっていたのだ。 膝の骨を肘に移植するという大手術だったため、復帰まで半年以上かかった。しかし、この期間がのちに飛躍するための土台をつくった。須江が振り返る。 「病院もそうだし、リハビリもそうだし、トレーニングもそうだけど、普段、会わなかった人に会って、いろんな話を聞くことができた。視野も広がったし、体作りの根本を見直すことができたと思います」 学校の近くに実家がある山口は手術後、毎朝5時半には学校にやってきて、7時半の全体練習開始の時間までストレッチとトレーニングに励んだ。朝4時半に起床し、お弁当も自分で作っていたという。 「こう見えてなんですけど、自分、けっこう料理好きで。ハンバーグとか得意なんです」 今も朝5時半から6時の間には学校に来るという。 《投手歴がほぼ1年しかない山口廉王。ドラフト3位で指名されるまでにはどんなストーリーがあったのか? 》 <続く>
(「野ボール横丁」中村計 = 文)
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