「40代で人生に停滞」と悩む男に精神科医・名越がアドバイス。大事なのは“人生の師匠”と出会うこと
ちなみに僕の場合も、そういうモデルというよりは師匠が何人かいます。ひとりは精神科医の故・野田俊作先生。 野田先生はグループで行うカウンセリング方法の「オープンカウンセリング」を日本に先駆けて導入した、カウンセリングの天才ともいえる方です。 大学時代に野田先生のオープンカウンセリングに参加し、衝撃を受けた体験から僕のカウンセラーとしての人生は始まりました。 精神科医になってからも野田先生の背中を追いかけ、さらに人としてのあり方や人間関係の間合いなどは武術家の甲野善紀先生から学びました。 もちろん、「自分はもう十分に頑張ったからこれ以上は望まない」という生き方の選択肢があってもいい。 しばらくの間はそれこそ気ままに休息すればよいのです。
そして再び自分の内側から好奇心が湧いてくれば、人生を先に進めれば良いのです。 さらに言うと、これまでは業績だったり金銭的なことだったり、数字に表れることを主に、人生の指標にされてこられたのかもしれません。 仕事の成果や社会的地位までも、現代においてはすべて数字で比較検討できます。 この数字の世界はある意味公平ですが、一瞬も安定することはない、明日のことはわからない世界です。 小説や映画の主人公は、数字で表すことのできない複雑な魅力を持っています。 僕がかっこいいなと思うのは、映画なら『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンス。『ゴットファーザー』のアル・パチーノに、『ゴットファーザー PART 2』のロバート・デ・ニーロ、それに『男はつらいよ』のフーテンの寅さんこと渥美 清さん。他にもたくさんいます。
この人たちは何故こんなに人を惹きつけるんだろうとか、どうしてみんなから憧れられるんだろうという部分を掘り下げて、自分なりに膨らませていくのもひとつの方法です。 もしも、周りにも物語の中にも、憧れるような人はいないと感じたとしたら、それは渇望が足りない時期なのかもしれません。 逆にいうと、人生の師匠に出会いたいと渇望してさえいれば、出会うチャンスはいくらでもあるということです。 若いときには多くの人が結婚して家庭を持ちたいとか、仕事で成功したいといったさまざまな欲を持ちます。 しかし、人生の後半になってくるほど、そうした欲はだんだんと枯れてくるものです。 だからこそ、ある程度先が見えて「人生虚しい」と思ったときが価値観変革のチャンスともいえます。 経験を積んだ大人こそ大きな欲を持ち、自分に見合った人生を歩んでいってほしいと思います。 達 弥生=取材・文 アントレース=編集
OCEANS編集部